エネマネ最新事情(30) ~肥料だけじゃない!水素社会の実現に必要なのはあのアンモニアって本当?~

    みかドン ミカどんアンモニアといえば多くの人がトイレの臭いを思い出してしまう刺激臭のある気体です。でも実は様々な工業製品に使われており、多くの産業にとってなくてはならない物質なのです。そのアンモニアがいま、水素社会実現の「鍵」として大きな注目を浴び始めています。今回は水素キャリアとして価値が急浮上しているアンモニアについてお届けします。

    世界の飢餓を救ったアンモニア

    (画像:資源エネルギー庁

    アンモニアは肥料、火薬のほか、汎用的な基礎化学品として多くの化学工業原料に利用されています。

    化学繊維のナイロンや合成樹脂の原料であったり、医薬品であったり、近年では火力発電所が排出する煤(スス)に含まれる大気汚染物質「窒素酸化物(NOx)」の対策(還元剤)としても利用されています。

    用途が多岐にわたっているアンモニアは世界全体の需要が年間1.7億tを超えますが、実際はその8割が窒素系肥料として消費されています。

    1909年にハーバー・ボッシュ法という製法が開発されてアンモニアの工業生産が可能になったことで、窒素系肥料の生産量が大幅に増えました。

    それによって農作物の収量が飛躍的に上がり、世界の飢餓が救われ人口の爆発的増加にも大きく寄与したといわれています。

    そのアンモニアがいま、水素キャリアとして注目されているのです。

    水素を大量に輸送する課題

    (画像:愛知県資料

    アンモニアの分子式は「NH3」で、水素(H)と窒素(N)で構成されています。これをアンモニアのまま運んで消費地で分離すれば理論上は水素と窒素が得られます。

    なぜそんな面倒なことをするのかというと、水素は非常に軽い気体で密度も薄いため、大量に輸送するためにはマイナス253度にして1/800まで圧縮し、超低温のまま液化した状態で運ばなければいけません。

    そのためのコストや設備、サプライチェーンなどはまだ十分確立されておらず「水素社会が来る」と言われていながら、まだまだ課題が山積みです。

    そこで水素を体積当たりの水素密度が大きく取扱いが容易な別の物質に変換して運び、燃料として使用する際にその物質から水素を取り出して利用するといった方法が考案されました。それが「水素キャリア」です。

    アンモニアは、常圧下で -33℃、または、常温で8.5気圧といったマイルドな条件で液化します。これは自転車の空気圧程度の圧力で、人力でも実現できます。つまり少ないエネルギーで液化できるのです。

    アンモニアが水素キャリアとして急浮上

    (画像:国際環境経済研究所

    またアンモニアは図のように、液化水素や水素キャリアとしてライバル視(?)されているMCHよりも単位当たりの水素密度が高く、効率よく水素を運搬できることがわかります。

    そして見逃せないのが、前述のようにアンモニアはすでに世界中の肥料や工業製品の原料として生産・運搬・貯蔵などの技術が確立しており、サプライチェーンも構築されていることです。それは新たな研究開発や初期費用の軽減を意味します。

    そのためここにきて、水素社会の実現にはアンモニアが不可欠ではないか?と言われ始め、日本で水素キャリアとしてのNH3を推進するグリーンアンモニアコンソーシアム(GAC)は、他の水素キャリア推進組織を圧倒する勢いで会員数を伸ばし、既に80を超える会社・機関が参加しているそうです。

    アンモニアはそのまま燃焼させてもCO2を出さないため、クリーンなエネルギーとしても注目されており、「水素社会」より「アンモニア社会」のほうが実現可能なのではないかとも言われています。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考記事:アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先 アンモニア合成法の新たな展開 「アンモニア」エネルギー・キャリアとしての可能性 アンモニア:エネルギーキャリアとしての可能性(その1) など

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