淡水と海水で発電する方法を米スタンフォード大学が開発
電気は電荷の移動で起こります。鉛蓄電池の場合は、正極(陽極板)に二酸化鉛、負極(陰極板)に海綿状の鉛、電解液として希硫酸をつかい、化学反応で電気を起こしています。これを天然の資源をつかって行えないかと考えて、海水と淡水による全く新しい発電を成功させた研究グループがいます。
新たな手法の開発に成功したのは、米スタンフォード大学の研究チームで、一連の研究成果が7月29日にアメリカ化学会(ACS)のオープンアクセス論文誌「ACS Omega」に掲載されました。
研究チームが開発した方法は、Mixing Entropy Battery(MEB:混合エントロピー電池)と呼ばれています。
エントロピーとは、個々に分かれて存在しているエネルギーの偏りが、混ぜ合わされて均一になり、安定して二度と元に戻らない度合いを示す言葉です。
海水と淡水を混ぜ合わせると、エントロピー増大の法則により、やがて塩分濃度が平均化しますが、そのときのイオン(電荷)の移動で電気が発生し、1立方メートルあたり、0.65キロワット時のエネルギーが生まれすそうです。(平均的なアメリカの家庭に約30分間電力を供給できる電力とのこと)
塩分の濃度差を利用して発電する方法を塩分勾配発電(または塩分濃度差発電)といいますが、現在研究されているのは主に浸透膜をつかったものでした。これは海水と真水を、水だけ通す特殊な膜で仕切り浸透圧のエネルギーでタービンを回す方式ですが、コストの課題がありまだ商業的な成功には至っていません。
一方、スタンフォード研究チームのMEBは、以下の図にある通り、膜を使わず可動部もないという画期的なもので、実用化されれば非常にシンプルで低予算のシステムとなります。
海水と淡水を交互に流して
今回、スタンフォードの研究チームが編み出した方法は、海水と淡水を混ぜ合わせるのではなく、独自素材の極材が設置された装置の中を交互に流れていくイメージです。
電極には色素などとして広く用いられている「プルシアンブルー」と導電性を持つ「ポリピロール」という丈夫で安価な2種類の素材を使います。
タンクに淡水が流れ込むと、電極からナトリウムと塩化物イオンが放出されるため(電荷の移動)導線に電気が流れます。次に同じ場所に海水を流してやると、今度は海水中のイオンが電極に取り込まれるため、再度電気が流れます。このときの電流の方向は先ほどとは逆になります。原文ではflushという言葉が使われているので、交互に勢いよくどっと水を流し込むイメージかと思われます。(トイレの水を流すのもflushと言いますよね)
この方法では、淡水と海水が流れている限り、ほかのエネルギーを必要とせずに再充電を継続的に行うことができます。先に行った実験でも、180回のサイクル対して9%の効率で「塩分勾配エネルギー」を回収することに成功しました。
廃水処理施設での活用に期待
MEBは海水と淡水を交互に流すことができる海辺の廃水処理施設や河口や船舶で有効ですが、米国では廃水処理施設が国内電力消費量の約3%を占めているため、施設のエネルギー消費量の抑制対策としても期待がもたれており、実際の実験でも米カリフォルニア州のパロアルト広域水質管理施設で廃水処理された淡水とハーフムーンベイで採集した海水が使われました。
再生エネルギーの欠点は、発電量が気象条件に左右されることですが、研究チームのMEBは豊富な海水を使うため安定していることと、素材が堅牢で耐久性があり、かつ、全体の仕組みがシンプルなので、安価でクリーンなエネルギーを提供できるのが特徴です。
世界の沿岸部にある廃水施設からエネルギーを回収した場合、理論的に回収可能なエネルギーは約18ギガワット、これは1500万以上の住宅に継続的に電力を供給するのに十分な数字だそうです。また大規模化が叶えば、廃水処理にとどまらず、海水淡水化設備への応用も夢ではありません。
この研究の共同著者であるスタンフォード大学のクリスチャン・デュブラスキー氏は「大規模にテストする必要があり、世界規模でブルーエネルギーを利用するという課題解決のために今後も実験と評価を続けていく」と語っています。
参考サイト:廃水処理した水と海水を混ぜてエネルギーを生み出す手法を米スタンフォード大学が開発
Charge-Free Mixing Entropy Battery Enabled by Low-Cost Electrode Materials
Stanford researchers develop technology to harness energy from mixing of freshwater and seawater
など。