ノーベル賞日本人受賞者(11)小柴昌俊博士は何をした人?~2002年(平成14年)物理学賞を76歳で受賞~

    みかドン ミカどん2022年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は2002年にノーベル賞物理学賞を受賞した小柴昌俊博士 です。

    ニュートリノ検出のパイオニア

    小柴昌俊博士(東京大学名誉教授:受賞時)はノーベル物理学賞を2002年(平成14年)に76歳で受賞しました。

    授賞理由は「天体物理学、特に宇宙ニュートリノの検出へのパイオニア的貢献」です。

    小柴博士は星が滅ぶ際の爆発(超新星爆発)で生まれる謎の粒子、ニュートリノを検出するため岐阜県神岡町に観測施設「カミオカンデ」を昭和56年(1981年)建設し、昭和58年(1983年)に観測を開始しました。

    そして、昭和62年(1987年)2月23日、地球から約16万光年離れた大マゼラン星雲で起きた超新星爆発により放出されたニュートリノ11個を13秒間にわたって観測することに成功しました。

    太陽系外からのニュートリノを、その時刻、エネルギーまで明確に検出したのは世界初で、この成果は超新星爆発の仕組みを解明し、光では観測不可能な星の中心部を直接研究することを可能としました。

    小柴博士はその後、太陽で生じたニュートリノの観測にも成功。そして「ニュートリノ天文学」という新しい研究分野を開拓した功績が認められ、2002年にノーベル物理学賞が贈られました。

    ※超新星爆発は寿命を迎えた星が起こす大爆発ですが、突然見たこともないような明るい光を放つため昔の人はそれを新しい星の誕生と考えました。そのため事実とは真逆の名前が付けられ今も使われています。

    ニュートリノとは?

    (画像:スーパーカミオカンデ 公式ホームページ)

    ニュートリノは素粒子です。素粒子と言うのは物質を構成する真の最小単位でこれ以上小さく分解することはできません。

    たとえば水(H2O)の分子は水素原子(H)2つと酸素原子(O)1つで構成されていますが、原子はそれぞれが原子核と電子で成り立っています。

    さらにその原子核は陽子と中性子でできており、その陽子や中性子は、クォークと呼ばれる素粒子が3つ集まってできています。(ちなみに電子も素粒子です)

    素粒子は現在17種類が発見されており、ニュートリノもそのひとつなのです(3種類あります)。

    ニュートリノは主に以下のようなときに発生しますが、ニュートリノ自体は珍しいものではなく、たとえば太陽で生まれたニュートリノは、私たちの体を1秒間に数百兆個通り抜けています。

    • 宇宙が誕生したとき
    • 太陽や星の中から
    • 星が最後に超新星爆発を起こすとき
    • 宇宙から飛んできた粒子が地球の大気とぶつかったとき
    • その他、地球の中、原子炉、加速器、(カリウムを多く含むバナナからも!)

    しかしニュートリノはどんな物質でも通り抜けることができるので捕まえにくいという性質を持ちます(すり抜けてしまう)。※そのため幽霊粒子とも呼ばれています。

    そして17種類の素粒子の中でも特に質量が小さいうえに、電荷を持たず他の物質とも反応しにくいため非常に観測が難しく、1950年代にようやく「実在」が確認されました。

    そのニュートリノを何とか観測しようと試みたのが小柴博士が作ったカミオカンデでした。

    カミオカンデがとらえた奇跡

    スーパーカミオカンデ(画像:MoguLive

    1983年完成に完成したカミオカンデは、岩盤の固い岐阜県神岡鉱山の地下1,000メートルの地点に設けた観測所で、直径15.6メートル、高さ16メートルの水槽に純水3,000トンを満たした大水槽でした。(現在はその後新たに作られたスーパーカミオカンデに観測を引き継ぎ、初代のカミオカンデはなくなりました)

    ニュートリノの中には、大量の水があれば、水分子中の電子と衝突するものがあり、その電子がチェレンコフ光という青い光を出します。

    水槽内壁には、この実験のために特に開発された、直径50センチの光電子増倍管約1,000個を、1平方メートルに1個の割合で配置してあり、カミオカンデはこの光電子増倍管でチェレンコフ光を捕らえます。

    もしこの設備で超新星爆発によって地球に到達したニュートリノを観測することができれば、その星の成り立ちや内部の核融合についての情報が得られます。

    超新星の爆発は1つの銀河で40~50年に1回という頻度ですが、現在は自動観測や大望遠鏡の発達で発見数は年間500程度に達するそうです。

    しかしいつ起こるかわからず、しかもニュートリノは地球さえもあっという間に簡単にすり抜けてしまうため(何の痕跡も残さず何にも反応しない)観測できる確率は異常に低いものでした。

    そんな中で小柴昌俊博士のカミオカンデがマゼラン星雲からのニュートリノを観測できたのは奇跡といってもよいかもしれません。

    親分肌だった小柴博士

    小柴昌俊博士(画像:Wikipedia)

    小柴博士は2020年に亡くなりましたが、生前を知る方によると、いわゆる大学教授のイメージとはかけ離れ、どちらかといえば、社長、政治家、親分と表現するほうがしっくり来る印象だったようです。

    物理分野の研究者は、浮世離れした学者が小さな実験室に閉じこもって研究に没頭しているという印象を持つ方も多いと思います。

    ですが最先端の物理学・天文学のビッグプロジェクトは、もはや一国だけで実施することは不可能であり、国内外の100を超える研究機関から1000人規模の研究者が参加することも決して珍しくありません。

    それらの組織を率いるためにはプロジェクトリーダーとしての資質も必要であり、カミオカンデの成功はまさに小柴博士の親分肌が成し得た偉業だったのかもしれません。

    カミオカンデは1年に1度水を抜いてメンテナンスを行うそうですが、研究に従事する人たちはこの日にもし超新星爆発が起こったらどうしよう?と気が気でなかったようです。

    その心配は杞憂に終わり、カミオカンデは奇跡的にニュートリノの観測に成功しますが、それはなんと小柴博士が退官によって東大を離れるわずか1カ月前のことでした。

    カミオカンデの後継施設であるスーパーカミオカンデからは、後年もう一人のノーベル賞受賞者が生まれていますが、それについては別の回で取り上げようと思います。

    ※追記)2024.4月に以下の記事を掲載いたしました。
    ノーベル賞日本人受賞者(23)梶田隆章教授は何をした人?~2015年(平成27年)に物理学賞を56歳で受賞~

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用: 小柴昌俊(平成15年2月15日顕彰)|横須賀市 ニュートリノって何? | スーパーカミオカンデ 公式ホームページ 5分でわかるスーパーカミオカンデ | スーパーカミオカンデ 公式ホームページ 小柴さん追悼:ノーベル賞受賞でNHKリポーターを絶句させた小柴先生のひとこと | 週刊エコノミスト Online  など