これでなっとく!エネルギー(10)ペロブスカイト太陽電池とは?〜横浜発!「印刷できる太陽電池」は日本の研究開発で生まれた電池なのです〜

    みかドン ミカどん

    このごろ当社のメルマガ「ミカドONLINE」のニュース紹介コーナーで、ペロブスカイト太陽電池の話題がよく出るようになりました。この段階ではまだ実用化はされていませんが、各国が覇権を争うように研究開発にしのぎを削っています。今回はそんなペロブスカイト太陽電池についての解説です。

    塗って発電!フィルムにも車にも印刷できる塗布型太陽電池

    ペロブスカイト太陽電池はシリコンではない新しい素材を使った太陽電池です。

    まだ商用化はされていませんが(この原稿時点)、塗布や印刷技術で大量生産することができ、ゆがみに強く軽いなど、シリコンにはない特性が注目されて、2010年代から急速に研究開発が進んでいる太陽電池です。

    ペロブスカイト太陽電池の素材にはペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造を持つ化合物が使われています。これを溶剤に溶かして塗布・乾燥させれば、比較的容易に太陽電池をつくることができるため、それほど大きなコストがかかりません。

    (画像:資源エネルギー庁

    また、製造時に高温プロセスを必要としないので、樹脂フィルムなど熱に弱い材料の上にも塗ることができます。

    ペロブスカイト太陽電池は、薄くしても高い変換効率を維持することができるので、近年は「塗る電池」「印刷できる電池」として話題になり、フィルムだけでなく建物の壁面やガラスの曲面、車の屋根、テント、衣服など、様々な場面での用途が期待されています。

    ちなみに、ペロブスカイトという言葉は、本来は灰チタン石という鉱物を指すものでした。 名前はロシアのペロブスキ氏が発見したことに由来しますが、現在はこの鉱物と同じ結晶配列を持つ人工的な化合物もペロブスカイトと総称されています。

    シリコンの太陽電池では「できないこと」があれこれできる

    (画像:資源エネルギー庁

    現在の太陽電池の主流はシリコンを使った太陽電池でそのシェアは95%を占めています(資源エネルギー庁)。

    シリコン系の太陽電池は、耐久性に優れ、変換効率(照射された太陽光のエネルギーを電力に変換できる割合)も高いという特徴があります。しかし製造にはお金がかかり、レアメタルの調達には外国の政情の影響も見過ごせません。

    またシリコンウエハーは割れやすいので、ガラスに貼り付けてポリマーシートで挟む構造になっています。そのため、面積に対して重量が重くなってしまい、曲げたり折ったりすることはできません。

    平地面積あたりの太陽光設備容量(画像:資源エネルギー庁

    国土の面積が狭く平地も少ない日本では、これから新たに太陽光発電を設置できる適地が少なく、上のグラフが示す通り、すでに日本は平地面積当たりの太陽光発電の導入量が主要国で1位となっています。つまり従来型の太陽光発電の普及は、現状では足踏み状態といえます。

    一方、ペロブスカイト太陽電池はその特性から、今までにはない柔軟な利用が見込めます。コストや資源調達の面でも以下のような長所があり、実現に向けて課題(後述)の解決が急務となっています。

    ① 低コスト化が見込める
    ペロブスカイト太陽電池は、材料をフィルムなどに塗布・印刷して作ることができます。製造工程が少なく、大量生産ができるため、低コスト化が見込めます。

    ② 軽くて柔軟
    シリコン系太陽電池が重くて厚みもあるのに対し、ペロブスカイト太陽電池は小さな結晶の集合体が膜になっているため、折り曲げやゆがみに強く、軽量化が可能です。

    ③ 主要材料は日本が世界シェア第2位
    ペロブスカイト太陽電池の主な原料であるヨウ素は、日本の生産量が世界シェアの約3割を占めており、世界第2位です(第1位はチリで約6割)。そのため、サプライチェーンを他国に頼らずに安定して確保でき、経済安全保障の面でもメリットがあります。

    桐蔭横浜大学 宮坂研究室で誕生した世界初の新しい太陽電池

    ロシア語を感じさせる覚えにくい名前のため、ペロブスカイト太陽電池は海外で開発されたと思う方も多いと思います。ですがこの電池を開発したのは日本人です。

    短く書くと、桐蔭横浜大学の宮坂力(つとむ)教授の研究グループで、門下生の小島陽広(あきひろ)氏(当時は大学院生)が世界初のペロブスカイト太陽電池を開発し、2009年に小島氏がその成果を論文で発表したのが最初です。

    その頃、横浜市では37歳の市長が誕生し、ベンチャーの独立起業を強力に後押しする政策を進めていました。そこで宮坂教授は大学発のベンチャー企業を立ち上げ、そこに入社したある研究者が「ペロブスカイトという素材で太陽電池をやりたい若者がいる」と、自分の弟子にあたる小島氏を紹介したのが二人の出会いでした。

    富士フイルム出身の宮坂教授は当初、違う材料でフィルム型太陽電池の研究を行っていましたが、小島氏を通じて初めてペロブスカイトの存在を知り、小島氏のリクエストに応える形で自分の研究室に参加することを許可し、研究を進めるように進言しました。

    最終的に小島氏が発表したペロブスカイト太陽電池はシリコン系太陽電池と比較すると不安定で変換効率も悪く(3.7%)、その時点では実用化が望めないものだったため、一部の研究者をのぞき学会の反応は鈍かったようです。多くの化学者にとってペロブスカイトは海のものとも山のものともわからず、手を出しにくい素材だったと思われます。

    これらの経緯に関しては大変詳しいドキュメントレポートがありますので、ご興味がある方はぜひ以下もご覧ください。

    ペロブスカイト太陽電池誕生(葭本隆太)/ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

    覇権を取り戻せ

    (画像:英国ランク財団の画像を一部編集)

    ペロブスカイト太陽電池は、寿命が短く耐久性が低い、鉛を使う、など、まだまだ課題が多いため商用化には至っていません。また、大面積化が難しいので今までの太陽光発電のような利用法にはならないと思われます。

    それでも競争が激化してきたのは、発電効率が大きく向上し、シリコン太陽電池(25%)にせまる22%の変換効率も達成できるようになったからです。そのきっかけをつくって耳目を集め、世界の研究者を本気にさせたのは、残念ながら日本人ではありませんでした。

    2012年のほぼ同じ時期に、韓国のパク教授が安定的で効率の高い固体ぺロブスカイト太陽電池を発表し、英国のスネイス教授が10%以上の変換効率を達成したこと発表しました。これによってペロブスカイトが「やればできる」伸びしろの大きい素材であることがわかり、状況が一変したのです。

    実は、パク教授は宮坂研究室で学んだ経験があり、スネイス教授はある宮坂門下生の”元”共同研究者でした。二人とも小島氏の論文に興味を持ち、袂を分かったあとも研究を続けてきた広い意味での関係者だったため、総指揮者である宮坂教授はこの一報に接して複雑な思いだったとのこと。そして今では財力のある中国がこの分野で先頭を走っているという見方もあります。

    2022年、最初の開発者である小島氏と宮坂教授はその功績により、英国ランク財団が発表するランク賞に選ばれましたが、受賞者の顔ぶれにはパク教授もスネイス教授も名を連ねています。

    本家本元の日本がまたしても取り残されているという話を最近よく聞くようになりました。

    2024年3月7日のニュースでは、経済産業省は ペロブスカイト太陽電池 を2025年の FIT において通常の太陽光発電よりも優遇された買取価格(10円以上)にする見通しであると報道されました。日本でのペロブスカイト太陽電池の実用化は2025年が目標です。

    国内では覇権を取り戻すべく、新たな動きも始まっているようです。今後の行く末が気になるところです。

    (ミカドONLINE編集部)


    引用・参考 日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?/スペシャルコンテンツ/資源エネルギー庁 ペロブスカイト太陽電池とは?メリット・デメリットと次世代太陽電池がもたらす可能性/朝日新聞SDGs ACTION! ペロブスカイト太陽電池誕生(葭本隆太)/ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 ペロブスカイト型太陽電池の登場(宮坂力)/2014年3月現代化学(PDF) など