今回は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士をご紹介します。大村博士はアフリカや南米で発生する感染症に効果のある微生物を発見し、10億人の命を救ったと言われています。
10億人を救ったと言われる感染症治療薬の開発に成功
2015年のノーベル生理学・医学賞は大村智(さとし)・北里大特別栄誉教授(80)と、米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士、中国中医科学院の女性医学者の屠呦呦(と・ゆうゆう)首席研究員の3氏が受賞しました。
このうち、大村博士とウィリアム・キャンベル博士は共同研究者で、この2名の受賞理由は「回虫、寄生虫によって引き起こされる感染症の新しい治療法の発見」です。
これは熱帯地方にすむ寄生虫が原因で起きる深刻な病気の治療法を見つけたという功績を示しています。
大村博士の研究は、土壌に生息する微生物がつくる化学物質の中から役に立つものを探し出すものですが、そのためには地道で膨大な微生物の採集活動が基本になります。
その過程で、静岡県のゴルフ場から採取した微生物を調べたところ、その微生物が出す化合物が熱帯の寄生虫が原因でおこる病気の治療に効果があることがわかりました。
そこで共同研究を行っている米国の製薬会社メルク社のウィリアム・キャンベル博士と共に改良を重ね、今では「10億人が救われた」と言われている治療薬「イベルメクチン」の開発に成功したのです。
米国の製薬会社と提携して北里研究所を立て直す
大村智博士(1935年(昭和10年)7月12日生)は山梨県の生まれです。農家の長男だったため、「ゆくゆくは自分が農家を継ぐのだろう」という思いがあり、勉強はあまりせずにスキーに明け暮れる毎日だったそうです。
けれど、夜間高校の教師をしているときに、昼は働き夜は真剣に勉強する学生の姿に触発されて「もう一度勉強し直したい」と決意し、東京理科大学大学院理学研究科に入学しました。
1963年、大学院を修了した博士は、山梨大学で取り組んだワインの研究を通して微生物の可能性に興味を持ち、その後、薬学博士号と理学博士号を取得しました。
1971年、大村博士は日本国内での研究に限界を感じて渡米するものの、かつて在籍していた北里研究所の研究室を引き継ぐことになり、志半ばの1年4カ月で帰国しました。
このとき米国で指導を受けていた化学者が米国の製薬会社メルク社出身であったことから、予算のない日本で研究を続けるためには同社の支援が必要と考えて、自分の研究成果をメルク社に渡し、実用化の際には特許料を受けとることなどを条件とする、業務提携と資金援助の契約同社と結びました。
財政難による閉鎖が決定していた北里研究所はメルク社からの研究資金で盛り返し、大村博士の研究チームにはやがて毎年15億円前後のロイヤリティがメルク社から入るようになりました。
実は日帰り温泉のオーナーでもあります
大村博士は国際的な産学連携を主導し、最終的に約250億円の特許ロイヤリティを研究現場に還流させるなど、優れた経営感覚の持ち主でもあります。
また人材育成にも才を発揮し、大村門下から輩出した教授は31人、学位取得者は120人余りという高い功績をあげています。
そして無類のゴルフ好きであることから、ノーベル賞の受賞会見では「『大村はゴルフをやるために研究を口実にしている』なんて言われます」とジョークを飛ばして会場を笑わせたそうです。
そういったエピソードの数々から、大村博士は決して研究室だけにとどまらず、組織の外にいる多くの人と交流しながら研究を貫いていくタイプの化学者であることがわかります。
ちなみに大村博士は地元では名の知れた美術愛好家でもあり、韮崎大村美術館という私設美術館を建てて収蔵品をすべて韮崎市に寄贈しています。
そしてなんとその横に日帰り温泉を建設して、そこそこの収益を上げているとか。
温泉施設の名前は「武田乃郷 白山温泉」。この温泉は泉質のいいかけ流しで露天風呂からは八ヶ岳や茅ヶ岳が見えるそうです。機会があったら一度訪ねてみたいものですね。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用:大村智さんってどんな人? 生理学・医学賞|ノーベル賞2022 NHK など