ノーベル賞日本人受賞者(5)佐藤栄作元首相は何をした人?~1974年(昭和49年)平和賞を73歳で受賞~

    みかドン ミカどん2022年9月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は日本人5人目のノーベル賞受賞者 佐藤栄作元首相 です。

    意外だった佐藤元首相のノーベル平和賞授賞

    佐藤栄作(さとう えいさく)元首相はノーベル平和賞を1974年(昭和49年)に73歳で授賞しました。

    受賞理由は「太平洋地域の和解と核兵器の拡散防止の努力」に対するものです。

    佐藤氏は「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」のいわゆる非核三原則を表明し、日本は1970年にNPT=核不拡散条約に署名しました。また「沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国の戦争は終わらない」として1972年に沖縄返還を成し遂げ、太平洋地域の安定に貢献したことが評価されました。

    ですが、受賞の発表に際して、多くの国民が「なぜ?」と意外な印象を受けたのも事実です。

    それまで日本人のノーベル賞受賞は4人ともすべてが科学的な功績によるもので、一般市民には「よくわからないけどすごい発見をしたらしい」という共通の認識がありました。けれど佐藤氏に関しては「そこまで世界の平和に貢献したのだろうか?」という素朴な疑問が本音だったように思います。

    当時の佐藤氏は、ニクソン・ショック(金とドルの交換停止、1ドル=360円という固定相場制が終了)や沖縄密約事件(外務省情報漏洩事件)が相次ぎ、日米繊維交渉のこじれ、統一地方選挙における革新陣営の台頭などで求心力が衰え、不人気なイメージのまま2年前に総理を退陣していました。

    また、佐藤氏の次に総理大臣になった田中角栄首相も金脈問題が騒がれ始め、政権が揺れている時期でした。

    ノーベル平和賞は本当は吉田茂元首相だったかも?

    実績の価値が一定期間を置いて精査される科学分野の各賞と異なり、ノーベル平和賞は現在活動中の人物や団体も対象になるため、さまざまな平和団体が自分たちの運動の知名度を上げようとロビー活動を行うケースが多いようです。

    また、政治家が受賞する場合は、(いわゆる)政治的な取引に使われることもあるそうで、権威あるノーベル賞の中でも平和賞だけは人選が”独特”で、決定後に物議を醸すこともよく見受けられます。

    近年では故・安倍晋三元首相が在任中に米国のトランプ前大統領を推薦したことが話題になりましたが、日本人の政治家でも吉田茂元首相や岸信介元首相が過去に候補者になっています。

    岸信介元首相を推薦したのは米国の上院議員ですが、吉田元首相を推薦したのは佐藤栄作元首相ほか数名の日本の政治家でした。狙いは日本の平和国家・文化国家としてのイメージアップです。戦後に復興して経済大国となった日本ですが、経済面だけでなく文化の面でも世界にアピールしたいという目的の下に、当時の鹿島建設会長が中心になって強力なロビー活動が繰り広げられたようです。

    しかし、そのさなかに吉田元首相は死去。けれど盛り上がった火を消すことはできず、代わりに佐藤栄作元首相が候補者となって引き続き推薦活動が行われたのだと思われます。

    そのため関係者の間では、もし吉田元首相が存命であればノーベル平和賞は吉田氏が受賞したという見方がありますが、一方で当時の吉田元首相に対する欧米の評価はそこまでのものではなかったと捉える向きもあり、評価は一定しないようです。

    栄ちゃんと呼ばれたい

    (画像:Wikipedia

    佐藤栄作氏(1901年 – 1975年)は山口県生まれの政治家で、第61-63代の内閣総理大臣を務めました。その少し前に第56-57代の内閣総理大臣を務めた岸信介氏は実兄です。

    その岸信介氏(実兄)の孫にあたるのが故・安倍晋三元首相なので、まさに政治家の一族と言えるのかもしれません。

    佐藤氏が打ち出した非核三原則はノーベル平和賞の選定理由になりましたが、その後の言動に矛盾が見られたり、核に関する密約の存在が死後明るみになるなど、ノーベル平和賞受賞者としての評価は現在も微妙な位置づけです。

    ですが歴代2位の在任期間を誇り(かつては1位でしたが故・安倍晋三元首相が記録を更新)安定した政権運営を可能にした背景には、「人事の佐藤」と呼ばれる人心掌握術や「早耳の佐藤」と評された情報収集能力があり、優れた政治手腕があったことは確かです。

    佐藤栄作氏と言えば、新聞記者を毛嫌いして会見場から排除してしまった退任会見が有名ですが、氏はかつて「栄ちゃんと呼ばれたい」と周囲に漏らしたことがあるそうです。これは短気、厳格、冷酷、官僚的と言われた自分を、話が面白く人を引き付ける魅力があった兄(岸信介)と比較して、庶民的なキャラクターにあこがれを持っていたからかもしれませんね。

    ノーベル賞の選考過程は50年後に公開されるルールになっています。2年後には佐藤栄作氏の受賞経緯が開示されますので、そのときにまた新事実がわかるかもしれません。そのときにどんな話題が出て来るのか、少し楽しみです。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用:ノーベル賞の権威とは? | 風の向くまま気のむくまま | 風の旅行社 安倍首相、「トランプ氏をノーベル賞に」の波紋 | 国内政治 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース 平和賞候補にヒトラー? ノーベル賞の都市伝説5 | ”Japan In-depth”[ジャパン・インデプス] ノーベル賞の国際政治学 ―ノーベル平和賞と日本:1960年代前半の日本人候補― 吉武信彦 吉田元首相をノーベル平和賞に 推薦状発見、65年に佐藤氏ら 平和賞候補にヒトラー? ノーベル賞の都市伝説5 5分でわかる「佐藤栄作」内閣総理大臣として何をした?生い立ちやノーベル平和賞受賞などを歴史好きライターが解説 – Study-Z ドラゴン桜と学ぶWebマガジン なぜ佐藤栄作は、誰もが無理だと思っていた「沖縄返還」を実現できたのか(田原 総一朗) | 現代ビジネス | 講談社 その79 政治家への「ノーベル平和賞」授与「こんなものいらない!?」(岩城元): J-CAST 会社ウォッチ【全文表示】 沖縄返還&ノーベル賞でも佐藤栄作が名宰相と呼ばれない理由|NEWSポストセブン など