
刑事コロンボは1968年から2003年まで米国で放送された全69話の人気ドラマです。このシリーズではドラマの中で当時の最新鋭機器という扱いで描かれている家電やシステムについてご紹介をしています。(ネタバレを含むので要注意!)

第52話「完全犯罪の誤算」ではコロンボがファックス原稿で他殺を確信
今回は刑事コロンボ(新・刑事コロンボ)の第52回「完全犯罪の誤算」(原題:Agenda for Murder)登場するファックスについてです。
「完全犯罪の誤算」の初回放送は、米国では1990年、日本では1995年です。この回の犯人は政界入りをもくろむ敏腕弁護士で、過去に不正のもみ消しをしてあげた知人(その当時は地方検事だったらしい?)がその事実の公表をちらつかせて、脅すような形でふたたび不正に加担するように求めてきたので、その人物に危険を感じ自殺に見せかけて殺してしまうというものです。
犯人は近々行われる大統領選挙後に副大統領指名が有力視される政治家の弁護士でもあり、政治家とは古くからの親友です。そのため政治家が副大統領になったあかつきには、自分も司法長官になれるという状況があり、汚点の発覚を恐れたゆえの犯行でした。
ファックスは犯行現場となった被害者(死亡時は弁護士)のオフィスの最新機器として登場します。IT音痴のコロンボが被害者の秘書を務めていた女性に「こういうハイテクは苦手」とさんざんぼやきながら機能や使い方を教わると、そこには海外旅行中の奥さんに被害者が送ったくだらない下ネタジョークの手書き原稿が挟まっていました。
送信時間を確認すると、それは被害者が亡くなる直前のできごとであり、これから自殺する人間がこんなことをするだろうか?とコロンボは疑問に思います。しかも奥さんへのジョークは未送信の2通目もあったことから、コロンボは他の状況とも併せて「これは自殺ではなく他殺」と確信を強めるという流れでした。
かつて世界のファックス市場は日本の独断場でした
ファックスの歴史は古く米国では、1960年代までには主に新聞社・軍・政府機関などの専用通信装置として利用されるようになり、1970年代に入ると大企業も導入し始めましたが、それらのほとんどが組織内の専用通信回線を使って送受信を行うものだったので、大型で価格も非常に高価でした。
日本でも1960年代にNEC・沖電気・富士通などが業務用FAX機を開発していましたが、1970年代にはいると、シャープ、パナソニック、ブラザー、リコーなどの家電メーカーも参入し、1972年にはNECが国内初の「一般電話回線」で使えるFAX「NEFAX 600」を発売します。
その後、1977年には沖電気が日本初の感熱記録方式のファックス「IF-2000」を発売、そして1980年のシャープ「FO-101」は普通紙対応の感熱転写ファックスとしてブームの先駆けになるなど、開発に加速が付き、国内ではパナソニックが1987年に発売した電話もできるファックス「おたっくす KX-F150」が大ヒットするなど、オフィスだけでなく家庭にも市場が広がりました。
今回のコロンボが米国で放送された1990年、私はすでに社会人として働いており、その数年前に職場にファックスが導入されて、皆で物珍し気に取り囲んで何度も試験送信をした記憶があるので、先進的な米国では日本以上にファックスがオフィスに浸透していたと思われます。(犯人の弁護士も「うちには2台ある」と言っています)
なのに「ハイテクは苦手。近寄らない」等々の発言をするコロンボは、世間一般以上に”乗り遅れている人物”として描かれているようです。
ちなみにドラマに登場するファックスは当時通信機器や軍事器機を得意としていたHARRIS社と3Mが手を組んで発売していた「115AD FACSIMILE」という機種ですが、当時のこれらの製品の多くが日本のテレコム機器メーカー Telcon(テルコン)からOEMを受けており、この機種も中身が日本製である可能性が高いようです。※現在、この記事に合致するTelcon社に関する情報は確認できませんでした。
ファックス市場に日本が参入後、日本の製品は世界を席巻するようになり、その隆盛は2000年代になってインターネットが台頭するまで続きました。
余談ですがこの回には三菱電機製のテレビもさりげなく映り込んでいます。当時の日本製品ってすごかったんですね。
(ミカドONLINE 編集部)
「刑事コロンボに見る当時の最新機器」これまでの記事:ポケベル ラジカセ マイクロカセットレコーダー ファックス
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