刑事コロンボに見る当時の最新機器(8)ホームセキュリティシステム(CCTV)

    みかドン ミカどん

    刑事コロンボは1968年から2003年まで米国で放送された全69話の人気ドラマです。このシリーズではドラマの中で当時の最新鋭機器という扱いで描かれている家電やシステムについてご紹介をしています。(ネタバレを含むので要注意!)

    第30話「ビデオテープの証言」では最新のホームセキュリティシステムが登場

    刑事コロンボでは社会的地位の高い人物が犯人や被害者として登場することが多く、その裕福さを表す小道具や設定として、当時は最新鋭だったと思われる電化製品やデジタル機器がよく登場します。

    刑事コロンボ第30回「ビデオテープの証言」(原題 :Playback)(米国1975年、日本1976年放送)では最新のホームセキュリティシステムが描かれました。

    この回の犯人であるハロルドは大きな電子工業会社の社長ですが、それは会長であるマーガレットの娘と結婚したことで得た地位です。

    機械オタクで発明好きのハロルドは新しい装置を考案したり電子機器を操ることは得意なものの経営センスはなく、会社のお金を自分の趣味や研究に注ぎ込んで経営状態を悪化させ、女性関係も派手だったため、義母であるマーガレット会長から社長の解任を告げられます。

    そこで自身が考えて設置したホームセキュリティシステムを悪用したトリックで義母を殺害してしまうのです。妻や義母と一緒に暮らしていたハロルドの家は、廊下などに防犯カメラが何台もセットされ、その映像を敷地内の守衛室に常駐するガードマンが常にモニターで監視するものでした。

    このドラマが放送されていた1970年代はCCTVカメラがようやく銀行や空港などに普及してきたばかりの時期で、一般家庭にそれが設置されてモニターで監視することなどは夢のまた夢。だからこそ当時の視聴者は高価なハイテク装置が導入された超お金持ちの家という印象を強く抱いたと思います。

    ハロルドが使ったトリックは、ガードマンが監視しているモニター映像を一時的に違うビデオと差し替えて犯行がリアルタイムで映らないようにしたり、義母がピストルで撃たれる映像を15分ずらして守衛室のモニターに流し、犯行時間をごまかすなど、おもに自分のアリバイ作りのための工作でしたが、最終的にはコロンボに見破られてしまいます。

    それは殺害現場の映像に、本当ならその時間にはないはずのものが写っていたからでした。完全犯罪を目論んだハロルドでしたが、逆に自身が考案したシステムの映像が動かぬ証拠となって罪が暴かれてしまったというわけです。

    ホームセキュリティの歩み~家を守るしくみの進化~

    古来から続く家を守るための工夫は「鍵をかける」「塀を巡らす」など物理的・構造的なものでした。それが20世紀に入ると電気と通信の力を借りて大きく進化します。

    世界で初めての電気式警報システムは19世紀後半のアメリカで誕生し、電話網を利用して異常を警備会社に知らせるものでした。これは窓やドアに電線をつなぎ侵入による開閉で電気が途切れるとアラームが鳴って警備会社にもそれが伝わるシステムでした。(刑事コロンボでも就寝前に装置のスイッチをONにする様子が複数の回で描かれています)

    1950年代には赤外線センサーやマグネット式ドアセンサーが登場し、今回の刑事コロンボ「ビデオテープの証言」が放映された1970年代には監視カメラ(CCTV)が銀行やオフィスに少しずつ設置されるようになります。1980年代に入るとマイクロチップや無線通信の発展で、セキュリティ機器は一気に小型化・高性能化していきました。

    このサービスが家庭向けとして一般に普及したのは、1970年代のアメリカが最初です。住宅地での侵入犯罪の増加を背景に、警備会社が24時間監視サービスを開始したのが始まりですが、残念ながら一番乗りした会社の名前までは特定できませんでした。調べる限りでは、いくつかの警備会社や警報装置の会社がこの時期に米国内の各地で相次いでサービスを開始したようです。

    一方、日本で防犯システムが注目されるのは少し遅く、1980年代後半のことです。高度経済成長で都市部の住宅が増え、空き巣被害が社会問題化しました。1981年にはセコムが「ホームセキュリティシステム」を発売し、1990年代にはALSOKなどが参入。そこで警備員が駆けつける安心感が支持され、次第に富裕層を中心に広まりました。

    2000年代に入ると通信技術の進歩でインターネット経由の監視やスマートフォン通知が可能になり、今ではクラウドカメラや顔認証システムまで登場しています。私は古い家に住んでいるので無知でしたが、先日、ある新築のお宅を訪ねたら、玄関のチャイムに埋め込まれたカメラで訪問者がわかるだけでなく、不在時に家を訪れた人も全部録画されて後から確認できるというので驚いてしまいました。

    ちなみにこういった監視カメラ/防犯カメラをあえてCCTVと呼ぶ理由は元の用語「Closed-Circuit Television」にヒントがあります。つまり”閉じた回路のテレビジョン”という言葉には、ただ撮るだけでなく、見る(監視する)ためのモニターが必ず存在すること、そしてそれは特定の場所の中だけで完結し非公開であることを意味します。

    鍵からセンサーへ、そしてデジタルへ――ホームセキュリティの歴史は、安心を形にする技術の歴史だったんですね。

    (ミカドONLINE 編集部)


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