最近、「うるう秒廃止論」が起こっているのをご存じですか?コンピューターの時計と連動して動いている様々なシステムや精密機器が、「うるう秒」としてイレギュラーな1秒が追加されることで、障害を起こしてしまう可能性があるからです。今回は「うるう秒」についての解説です。
「うるう秒」は数年に一度実施される世界時間の人為的な調整
地球は1年かけて太陽の周りを一周します。ですが公転の周期が365日ちょうどではなく、それよりも約1/4日長い365.2422日であることから、1年を365日にしてしまうと段々ズレが生じます。その調整のために4年に一度設けられたのが1年が366日ある「うるう年」です。
「うるう秒」も地球が一回転する1日の長さが正確に24時間ではないため、ズレの拡大を防ぐために1972年に始まりました。その「うるう秒」に対して廃止すべきだという議論がいま沸き起こっています。理由は様々なシステム障害の原因になるからです。
「うるう秒」は「うるう年」と違って規則正しく設定されているわけではありません。現在の時間は原子時計というしくみを使って正確に計測されていますが、地球が一回転する時間と原子時計のズレが1秒に近くなってくると、IERS(国際地球回転・基準系事業)という国際機関が人為的に決めて、数年に一度の実施を発表しているのが「うるう秒」なのです。
「うるう秒」には規則性がなく予測不可能
「うるう秒」は世界時間の12月31日23時59分59秒のあと、もしくは6月30日23時59分59秒のあとに1秒を入れる決まりです。(日本時間では8時59分59秒と9時00分00秒の間に1秒を挿入)
ですが今までに27回実施された過去の記録を確認すると規則性がまったくありません。上の表のように何年も続けて実施するときもあれば、1999~2006年のように長期間実施しないときもあります。
これは地球の自転速度にムラがあるからです。地球は精密な機械ではなく自然な環境なので、内部にある「核」の運動の変化や水(海水、陸水、氷河)の分布変化などで自転速度が常に変わっています。ですからこれに現実の時間を合わせようとすると、「うるう秒」の実施は不定期なものになってしまうわけです。
けれどこの状況が段々時代に合わなくなってきました。うるう秒を実施するかどうかは半年前に決定されますが、長期的には成り行きまかせになっている「うるう秒」の調整が精密機器や様々なシステムに不具合を引き起こすようになってきたのです。
実際に2012年には特定のソフトウエアがうるう秒を処理できず、多くのシステムで障害が発生しました。その次にうるう秒が実施された2015年以降はベンダーの多くが対応していたため、大きな障害の報告はありませんが、こういった事情を背景に「うるう秒」廃止の声が上がり始めました。
「うるう秒」は産業システムに百害あって一利なし?
「うるう秒」の廃止を望む声は近年一段と高まってきました。それは今後「負のうるう秒」が予測されているからです。実は2010年代後半から地球の自転速度が速まってきており、このままいくと10年以内に史上初めて「1秒を引く」うるう秒が必要になります。
今までは地球の自転速度がわずかに24時間を上回っていたので「数年に一度どこかで1秒足す」ことで補正していました。しかし今度は1秒を引かなければなりません。これは今まで誰も経験したことがないのです。
今年の7月にはFacebookを運営する米国のメタが「負のうるう秒はソフトウエアに壊滅的な影響を与える可能性がある」として強い懸念を表明し、廃止論がいっそう強まりました。
考えてみれば、現代の産業システムは地球の自転速度のような曖昧で不確かなものに合わせていく構造にはなっておらず、そこにこだわる意味も必要性もなくなってきているのかもしれません。
これについての世界的な話し合いが来年行われる予定ですが、現状ではうるう秒の存続を主張する国や地域はないそうです。予想では、うるう秒は35年までに廃止され、少なくとも100年は時刻を補正しないという決議になりそうです。
(ミカドONLINE編集部)
出典/参考記事:「うるう秒」に廃止論 メタが懇願、システム障害懸念: 日本経済新聞 うるう年とうるう秒について | THE SEIKO MUSEUM GINZA セイコーミュージアム 銀座 うるう秒が必要な理由、システム障害を引き起こす可能性 | 日経クロステック(xTECH) うるう秒|時計の知識 | シチズンウオッチ オフィシャルサイト [CITIZEN-シチズン] など