昨年の秋、清水建設が約500億円をかけて建造した世界最大級のSEP(セップ)船「BLUE WIND」が完成しました。この船で洋上風車を建設すると工事期間が従来の半分になるそうです。今回は清水建設の「BLUE WIND」とSEP船について調べてみました。
清水建設が約500億円をかけて世界最大級のSEP船を完成
昨年の10月、世界最大級のSEP船「BLUE WIND」が日本で完成しました。この船は清水建設が約500億円を投じてジャパン マリンユナイテッドに発注した作業船で、5兆円を超す市場規模となる洋上風力発電施設建設工事の受注を目的に建造されました。
SEP船のSEPはSelf Elevating Platformの頭文字です。その名の通り自己昇降式作業台船とも呼ばれており、4本の脚を海底に着床させ、船体をジャッキアップしてクレーン作業を行います。
(過去記事)驚異のエネマネ新技術(02) ~洋上風力発電はどうやってつくるの?~
(CG動画)洋上風力発電ができるまで(YouTube)
2年前、2050年までにカーボンニュートラルを目指す政府は、2030年までに1000万キロワット(原子力発電約10基分)の洋上風力発電プロジェクトを組成する方針を打ち出しました。
しかし次々と計画される商用洋上風力発電施設に対して、それまでの日本国内ではSEP船の数が圧倒的に不足していました(2020年の時点で2隻)。そこで洋上風力発電を次世代の大きな収益の柱ととらえるゼネコン各社は今後の受注をにらみ、政府の発表と前後するように相次いで自社SEP船の新造を開始しました。
それがようやく竣工の時期を迎えつつあるのが現在です。今回の清水建設を皮切りに、鹿島と五洋建設などが建造するSEP船は今年4月の稼働を予定しているほか、大林組と東亜建設工業が建造中のSEP船も同時期に完成予定です。そしてゼネコンだけでなく海運会社の日本郵船もSEP船を保有して2026年に運航することを発表しています。(新造船か既存船の購入かは未定)
資材をたくさん積めるので工事期間が半分に
清水建設のSEP船は全幅50m、全長142m、総トン数28,000t、クレーンの最大揚重能力は2,500t、最高揚重高さは158mで、これらは世界有数の作業性能です。(こちらのブログ記事では、世界最大の中国SEP船と現時点でタイとのことです。)
サッカーコート1面分の広い甲板には最大で8MW風車なら7基、12MWなら3基分の全部材を一度にフルサイズで一括搭載できます。そのため資材を運搬する移動回数が減り工期が大幅に短縮されるようです。
清水建設のサイトによると「予備日をみて8MW風車の場合は7基を10日、12MWの場合は3基を5日で据え付けることができ」る能力を持ち(基礎工事は除く)、通常の作業台船に比べ稼働率が約5割向上するそうです。
8MW風車はニューヨークの自由の女神の2倍、12MW風車は東京都庁を超す高さですが、昨年取材させていただいた2MWの酒田大浜風力発電所の風車でさえ「高い!大きい!」と驚いたのですから、8MW級や12MW級はいかに巨大かわかります。
そういった大きな資材を一気に運べる大型船の存在が、日本で初めての8MW風車設置を可能にしました。
石狩湾新港洋上風力発電所新設工事に着手~ 日本初の大型風車(8MW/基×14基)及びジャケット式基礎を用した国内最大級の商用洋上風力発電所 ~
清水建設では石狩湾新港よりも前の時期に建設される富山県入善町沖でも、すでに3MW風車3基の設置を受注しています。年々大型化している風車に対応できるSEP船を持っている会社がよりに有利になることを思えば、各社が気合を入れるのも理解できますね。
日本で初の自航式SEP船と想定外の追い風で勢力図が変わる?
清水建設のSEP船BLUE WINDは日本で初めての自航式SEP船であることも大きな特長です。自航式SEP船は海外では一般的ですが、鹿島や大林組などが保有する今までの国内のSEP船はタグボードなどで曳航(えいこう)するタイプの船でした。
曳航型の台船はタグボードの手配や曳航費用が発生しますが、その調整とコストが要らない自航式SEP船は今後も引き合いが増えると予想されています。
そして同社にとって想定外の追い風になっているのが、新型コロナウィルスとロシアのウクライナ侵攻です。当初、洋上風力発電プロジェクトを手掛ける総合商社、電力会社などは、工事に必要なSEP船を海外から輸入する予定でした。国内の新造船よりも海外の中古船のほうが安いと思われたからです。
けれど原油の値上がりで海上運賃が大きく高騰し、SEP船を海外からの調達するのが難しくなってしまいました。
また、ヨーロッパでは各国が「脱ロシア」のエネルギー政策に方針転換し、落ち着いたと思われた洋上風力発電施設の建設が再び増加しています。それは海外のSEP船も現在はフル稼働で日本に用船できる船がもう空いていないということを意味します。
そういった背景を受けて、今回の清水建設のSEP船はゼネコンの勢力図を塗り替えるのでないかとも言われています。
現在洋上風力発電分野に参戦している主なゼネコンは鹿島、大林組、清水建設、大成建設、戸田建設、五洋建設の6社ですが、この分野にはゼネコンだけでなく国内最大の発電事業者であるジェラや外資系エネルギー企業など、多数の事業者がひしめいています。
世界的な脱炭素の大きな流れは様々なビジネスで熱い戦いを生んでいると言えそうです。
(ミカドONLINE編集部)
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参考/引用記事:2050 年カーボンニュートラル実現のための 基地港湾のあり方に関する検討会(第3回) 議事要旨(PDF) 「圧倒的不足」のSEP船、日本郵船が運航へ|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 世界最大級のSEP船「BLUE WIND」が完成 | 企業情報 | 清水建設 清水建設がゼネコン洋上風力バトルで形勢逆転!先行していた大林組はまさかの出遅れ組に | Diamond Premium News | ダイヤモンド・オンライン など
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