(47) 頑張って耐えました。一転して皆が応援し始めたトヨタの水素エンジンがEV一択のEUエコカー規制に風穴を開ける?

    みかドン ミカどんロシアのウクライナ侵攻や円安の影響を受けて、様々なものが値上がりしています。輸入で成り立っている私たちの暮らしはいまや世界の情勢と無関係ではいられません。そんな中で今回は、外国に左右されない国産エネルギーの実現を目指す水素エンジンをご紹介したいと思います。

    水素エンジンに大きな期待が寄せられています

    水素エンジンが急速に注目を浴びています。これはこのサイトで今までご紹介してきたような水素を使った燃料電池ではなく、水素を直接、燃やして車を動かすエンジン(内燃機関)です。

    簡単にいえばガソリン車のガソリンをそのまま液体水素に置き換えたようなもので、現在はまだ実証段階ですが、従来の自動車製造工程やこれまでに培った多くの技術を活かせるため、新たなエコカーとして大きな期待が寄せられています。

    燃焼してもCO2を出さない水素は地球上のどこにでもあるありふれた元素ですが、他の元素と結合しやすいので自然界には単体で存在せず、単体で活用するためには大きな手間とコストがかかります。けれどその最大の課題が将来的にクリアされれば、どの国でも手軽に扱えるエネルギー燃料になり得ます。

    今年(2023)の3月、EUが大きな方針転換を発表し、一大ニュースになりました。それまではEV(モーターで動く電気自動車)しか認めてこなかったエコカーの基準を見直し、今後のエンジン車販売の全面禁止を撤回したのです。

    EUの今までの方針は、2035年以降の内燃機関車(エンジン搭載車)の販売を禁止するもので、それは域内でのEV利用を法的に義務化していくものでした。

    しかし先の発表でその規制が緩和され、自然環境に配慮した合成燃料を使えば2035年以降もガソリンエンジン車の販売が可能になりました。もちろんその中には水素エンジン車も含まれます。(水素エンジンは他の燃料との混焼も可能)

    日本ではこれまでハイブリッドカーや水素を使った燃料電池車など様々な技術開発を行ってきましたが、EV一択を強いるEUではそれらを一切認めず、それはさながら日本潰しのようでした。

    そのためEVに乗り遅れた日本は世界から非難され苦戦してきましたが、ここに来てようやく追い風が吹き始め希望が見えて来たようです。

    EV推進の課題に世界が気づき始めた

    (画像:【公式】テレビ愛知 TV Aichi-YouTubeチャンネル

    EUはルールづくりが非常にうまい地域です。産業にしてもスポーツにしても自分たちの前に立ちはだかる一強がいれば、巧みにルール変更を主導して大きな障壁を取り除く努力をしてきました。

    自動車産業における強力なEV推進も地球環境への配慮だけでなく、そういった側面があったと思われますが、近年は今後すべての車がEVになったときの課題も浮上してきたのです。

    それは域内での自動車産業の大きな衰退。そしてEVの増産によって地球環境の悪化がむしろ進むのではないか?という真逆の懸念です。

    自動車産業の衰退について
    内燃機関は長い歴史を経て高度な技術が確立されてきました。しかしこれをEVに置き換えた場合、電気モーターで走るEVはそこまでの高い技術力を必要としないため、労力の安い途上国でも自動車製造が可能になりますし、資本力を持った後発のメーカーが次々と参入してくることも考えられます。

    また、EVに欠かせないリチウム生産は豪州、チリ、中国、アルゼンチンの4ヵ国に集中し、そこからリチウムイオン電池を作れる国は中国、韓国、日本に限られ、中でも中国は、リチウムイオン電池に必要な(リチウム以外の)レアメタル主要産出国でもあります。

    そうなると今後のEV製造はバッテリー原料を握るキーマンの中国に大きく左右されてしまう可能性が出てきました。つまり、かつてのオイルショックのような地域偏在の危険性が議論されるようになったのです。中国がNOと言えばEVは作れなくなってしまうのです。

    そして今回の直接の理由になったと思われるのが、EV移行による大量倒産と大量失業者の問題です。車のエンジンは7000~1万点の部品で成り立っていると言われますが、これがすべてEVに代わると使われる部品の数が大幅に減ります。するとそれらに従事していた様々な事業者の仕事がなくなり、倒産などによって大量の失業者が出ると予測されています。これはまさしく国力の低下にほかなりません。

    日本でもトヨタの豊田章男社長(当時)が「すべての自動車がEVになると国内で100万人の雇用が失われる」と述べていますがこれは日本に限ったことではなく、ここに自動車を基幹産業とするドイツが反旗を翻したというのがもっぱらの見方です。EUも一枚岩ではなかったのです。

    EVは本当に環境にいいのか?という疑問

    (画像: NewsPicks /ニューズピックス-YouTubeチャンネル

    そして現在、EVは本当に環境にいいのか?という疑問も浮上してきています。

    ガソリンという化石燃料を使わずに電気モーターで走るEVは、排気ガスを一切出さないので走行中は確かにクリーンですが、搭載されているリチウムイオン電池バッテリーは製造時に多大な電力を消費します。となると、車載用リチウムイオン電池の急激な増産によって、逆にCO2排出量が増えてしまうのではないか?という懸念です。

    そのため最近は、走行時のCO2排出量だけではなく、製造から廃棄までのすべての過程でCO2排出量をカウントしていこうという流れも出始めてきました。

    そして今、新たに問題になっているのがEVの使用済みバッテリーの処理問題です。リチウムイオン電池は廃棄コストが高いため、寿命を終えた車載用リチウムイオン電池の94%が処理費の安い中国に集められていますが、その中国では違法な処理が行われていることも多く、新たな環境汚染が発生しています。

    適切に処理されなかった車載用リチウムイオン電池のコバルトやニッケル、マンガンなどが長期間に渡って環境に影響を及ぼす土壌汚染を引き起こしているらしいのです。

    そういった様々な事情を背景にEV一辺倒だった欧州の方針も揺らぎ始め、今回の方針転換に至ったものと思われます。

    トヨタの水素エンジンを応援する人が増えています

    (画像:【公式】テレビ愛知 TV Aichi-YouTubeチャンネル

    トヨタは2021年に「水素エンジンの開発に着手する」と発表しました。トヨタの水素系自動車は燃料電池車の「MIRAI」がすでに実用化されていますが、その開発を通して得られたノウハウを基盤に、同社は新たに水素エンジンの研究を進めてきました。

    水素エンジンはかつてマツダやBMWも1990年代から2000年代にかけて研究を進めて来た技術ですが、当時はインフラが十分に整っておらず、両者とも実用化を断念した経緯があります。当時「夢のエンジン」と言われた水素エンジンには、理想という意味と共に「実現困難な」という意味合いもありました。

    ですが時が経ち、それを日本のメーカーが(国内および世界中から水素への非難を浴びながらも)独力で開発していったことは特筆に値すると思います。その背景には次々と技術提携を申し出る多くの協力会社の存在があったことも見逃せませません。

    外国に左右されない日本独自のエネルギー環境を自動車産業で確立したい。

    トヨタの水素エンジンにはそういった関係者の熱い思いが集結しているのかもしれません。ネット記事を拝見しても、今まで「日本だけが独自路線でなぜ水素?」と首をひねっていた人たちが一転、応援に転じている様子がうかがえます。

    クリアすべき課題がまだまだ山積みで、実用化はしばらく先と言われる水素エンジン車ですが、トヨタは5月26日から28日に開催される富士スピードウェイの24時間耐久レースで水素燃料エンジン車を投入することを明言しています。

    2021年、2022年と参戦を続け、今年は水素漏れのトラブルで初戦は見送ったものの、このメルマガが配信される週の土日には第2戦の結果が出ているものと思われます。

    結果が良くても悪くても、新しい技術開発に果敢に挑戦していく姿勢を私は貴重だと思います。古今の大きなブレイクスルーは世間の評価に屈しないそういった取り組みの中から生まれて来たからです。

    野球の大谷選手が「無理ではないか?」という前評判をはねのけて二刀流を貫いているように、できればトヨタさんにもいい結果を残してほしいと願う今日この頃です。

    (ミカドONLINE編集部)

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    参考/引用記事: 水素エンジンとは? │ | 株式会社フジ|鋳造用金型、各種治具の設計・製作の株式会社フジ 水素エンジンの仕組みをわかりやすく解説!実用化に向けたメリットや将来性とは?|Y media|ヤンマー 「水素エンジン」は本当に実用化するのか トヨタの本気が周りを動かし始めた:高根英幸 「クルマのミライ」 – ITmedia ビジネスオンライン トヨタ先行、欧州勢も改心 | 日経クロステック(xTECH) 水素自動車とは?仕組みや将来性、普及しない理由、販売しているメーカーは? – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』 その他掲載各YouTubeチャンネル など

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