驚異のエネマネ新技術(14) ~使い捨て可能!?土に還るデバイス素材のCNFとは~

    大阪大学が1か月で土に還る分解性のIoTデバイス開発に成功

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    (画像:夢ナビ編集部「Facebookページ」より)

    昨年、大阪大学が、時間が経てば自然に土に還る分解性のIoTデバイスを開発した、と発表しました。

    IoTとは、センサーや電動装置、建物、車、電子機器、電化製品など、いままでインターネットに接続されていなかった様々なモノに通信機能を持たせ、ネットワークを通じて相互に情報をやりとりして、農業、医療、都市管理、製造現場、住空間など、従来は不可能だった分野やエリアを監視したり操作したり自動制御したりするしくみです。

    大阪大学が開発したのは、湿度などの環境情報をワイヤレス発信できるセンサーです。このデバイスは紙(CNF)と金属、石ころ(鉱物)という自然の恵みだけで作られているので、使用後に自然環境に放置・流出されても、1カ月程度で「土に還る」という特徴があります。そのため市街地のみならず、農地や森林などあらゆるシーンでの活用が期待でき、主な用途としては災害対策を想定しているとのこと。

    冒頭の写真は、手前が今回の開発品で奥が他の素材をつかって同じ機能を持たせたものです。奥の製品が半年経っても形状がほとんど変わらないのに比べ、土の上に置いた開発品のほうは180日後にはほとんどが土中の微生物に分解されて原型をとどめません。この性質を生かし、回収が困難な山奥や危険地帯や被災地域のような場所でも、(例えば空からばら撒くなど)ワンウェイで大量に設置できるというものです。

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    (画像:大阪大学産業科学研究所「Hot topics」より)

    研究グループの春日貴章氏(大阪大学産業科学研究所)によれば「山火事が発生した際にIoTデバイスを大量に配置すれば、湿度の測定でどのように火事が延焼するか予測できる可能性がある」そうです。また、湿度だけでなく「ガスや金属などに反応するセンサーにできれば、火山ガス発生時の避難経路の選定、地雷の発見などにも利用できる」というお話です。

    ですがこれが「紙」と言われても、透明なプラスチックに見えるだけで、一般的な紙のイメージとはかけ離れているように感じられます。素材はCNFといわれるものですが、CNFとはいったい何でしょうか。

    CNF(セルロースナノファイバー)は紙の常識を超えた紙

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    (画像:2018年のNEDO「実用化ドキュメント」より)

    CNF(セルロースナノファイバー。以下CNF)とは名前の通り、樹木の繊維(セルロース)を直径数〜数十ナノメートルまで細かく解きほぐした繊維状の物質です。1ナノメートル=10億分の1メートルですが、髪の毛の1000分の1以下と言った方が、わかりやすいかもしれません。

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    (画像:王子ホールディングス)

    具体的には木材などを化学的、あるいは機械的に処理して繊維を抽出し、細かくほぐして製造しますが、白濁している紙漉きの和紙などと異なり、ひとつひとつの繊維がとても小さいため、水に溶かすと透明になり、乾燥させるとそのまま透明な紙「ナノペーパー」が出来上がります。

    これは、こぼれた砂糖水が乾燥すると透明な飴状になる性質に似ていますよね。そういえば繊維(セルロース)も砂糖も主成分は炭水化物なので似ていて当然なのかもしれませんね。

    さてCNFからつくられるナノペーパーは透明かつ熱を加えてもガラス並みに伸び縮みせず、表面が平滑であるなど電子デバイス基板としての優れた特性と、紙本来の軽さと柔軟性、生分解性を併せ持っています。

    そこで開発品は、基板にCNF製ナノペーパー、コイルとコンデンサーに銀ナノインク、トランジスタと抵抗に金属部品などをつかって作成し、コンデンサーはCNF製ナノペーパーと銀ナノインクを接着剤なしで積層して作成すると一般的な樹脂製コンデンサーと同等以上の性能を発揮しました。

    前述の春日氏によれば「CNF製ナノペーパーは繊維が緻密なため、ペーパー上の孔(あな)が小さくて絶縁性がある。普通紙で実現できない高性能なコンデンサーを開発できた」そうです。

    CNF-IoTデバイス_hottopics_20191206_2加えて、ナノペーパーを誘電層として使用したナノペーパーコンデンサは湿度に応じて性能が変化する、湿度センサとしても応用可能であることが判明しました。

    そこで、印刷・塗布プロセスのみを使用してコイル・抵抗・ナノペーパーコンデンサをナノペーパー基板上に実装したところ、湿度の変化に応じて無線信号が変化する、ナノペーパーIoTデバイスを作製することに成功しました。

    ナノペーパーIoTデバイスは分解を妨げるプラスチック基板や接着剤を使用しておらず、そのほとんどが「紙」で構成されているため、土の中で40日後には総体積の95%以上が分解しました。

    ちなみに熱に強く堅牢なナノペーパーですが、燃やすと普通に燃えるそうです。樹木の繊維からできていることに変わりはないので、「紙と同じ匂いで紙のような炎で燃える(研究グループの能木雅也教授)」らしいですよ。

    CNF(セルロースナノファイバー)は持続可能な社会に有望な素材

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    実はCNFの実用化はすでに始まっており、決してデバイス専用の素材というわけではありません。

    CNFは以下のように優れた特長があるため、紙に変わる新たな夢の素材として、製紙会社がいちはやく多様な分野で製品化に乗り出し、木材化学の専門家である優位性を活かそうとしています。

    CNFの特長

    • 軽量・高強度 鉄の5分の1の軽さで鉄の5倍の強度
    • 寸法安定性 温度変化に伴う伸縮は石英ガラスと同様
    • 透明性 光を透過させる紙(フィルム)が可能
    • ガスバリア性 膜が酸素などのガスを通しにくい
    • 細孔制御性 表面積が大きいため細孔制御性に優れている
    • 粘性・弾性制御性 水中で粘性を付与したり微粒子を分散させる
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    (画像:日本製紙より)

    具体的には、中越パルプはPP複合材を開発し、王子HDは薄膜ガラスの代替製品を製造し、日本製紙は子会社のクレシアで紙おむつ(大人用紙おむつ「肌ケア アクティ」シリーズ)への利用を開始しています。

    また、日本製紙は私たち宮城県の石巻工場にも、年間量産500tの生産ラインを建設し2015年から稼働させています。

    他にもボールペンのインクに混ぜて滑らかさを出したり(三菱鉛筆、第一工業製薬)、パルプに混ぜて破れにくいトイレットクリーナー(大王製紙)を実現させたり、スピーカーへの適用(オンキヨー)や、自動車部品に活用して軽量化にチャレンジするNVCプロジェクト(環境省と産官学22団体)など、様々な分野で実用化や実証実験が盛んに進められています。

    これらの背景にあるのは、SDGs(エスディジーズ)の浸透です。国連が採択した「持続可能な開発目標」に準拠した製品でなければ今後は海外から取引を断られる可能性が高くなっているのです。つまり製造過程で温室効果ガスを多く排出する製品やリサイクルできない製品は、今後は世界市場から排除されてしまう危機感です。

    実際に環境意識が高いヨーロッパでは様々な規制が始まっていますし、少し前には世界中の投資家がそこから撤退したこのご時世に、日本の銀行が「化石燃料を使う火力発電に世界で一番出資している」と世界中から非難されたことも記憶に新しいです。

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    リサイクルチャート(Wikipedia

    そんな中で植林などで再生産ができ燃やしたり土に還すことでリサイクルできるCNFは、天然由来の「グリーン材料」として印象が良く、様々な環境規制もクリアしていけるのではないか?という希望があります。

    そしてそれ以上に期待されているのが低コストの実現です。CNFは木材など植物から採れるため、原料費が安くなる可能性があり、加えて、低コストな製造プロセスも開発されています。

    CNFに関して経済産業省は「2030年に国内だけで1兆円市場に成長する」と試算しています。これは日本だけを見たものなので、世界市場になるともっと広がりを持つのかもしれません。

    CNFは今後、プラスチックに取って代わる素材として成長していくのでしょうか。

    最後になりますが、CNFに関して非常に分かりやすい動画がありましたので以下にご紹介してこの記事を終えたいと思います。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典:
    回収不要、「土に還る」IoTデバイスの開発に成功 -紙の電子デバイスが実現する人・環境にやさしい情報社会- 阪大、「土に還る」IoTデバイス開発 災害で活用 大阪大学が回収不要の「土に還る」IoTデバイス、災害対策の用途を想定 セルロースナノファイバーに企業が注目する本当の理由 究極の紙「セルロースナノファイバー」量産へ。製紙各社が見せる本気補強材・新機能に。サプライヤーとしてのポジションは譲れない セルロースナノファイバーの主要企業が静岡に集結 「ふじのくにCNF総合展示会」が開催   など。