地球温暖化の要因として排出抑制が世界的な課題になっている二酸化炭素(CO2)ですが、なんとその二酸化炭素から肉をつくる技術を開発して事業化を目指しているベンチャー企業がいます。今回はそのご紹介です。
二酸化炭素を食べる微生物がいる
二酸化炭素から肉をつくる技術が進められています。研究開発を行っているのは東大発のベンチャー企業「(株)CO2資源化研究所」(湯川英明代表取締役)という会社です。
気体である二酸化炭素からいったいどうやって肉をつくるのでしょうか。
実は二酸化炭素をタンパク質に変えてくれるのは人間ではなく微生物なのです。
この地球上には様々な能力を持つ菌が存在しますが、温泉地などに生息している水素菌は水素をエネルギー源にしながら、二酸化炭素から取り込んだ炭素で自分自身の体(タンパク質)をつくります。
CO2資源化研究所ではその水素菌の中から「UCDI株」という独自の株を使い、水素と二酸化炭素から動物性タンパク質を生成する技術を開発しました。二酸化炭素が直接肉に変わるわけではなく、代替肉の原料となる水素菌を二酸化炭素(と水素)で育てるということだったんですね。
※UDCIはCO2資源化研究所の英文社名「Utilization of Carbon Dioxide Institute Co., Ltd.」の略称です。
驚異的な増殖スピード
(株)CO2資源化研究所の独自株水素菌「UCDI株」はタンパク質含有率が8割と高く、これはスポーツ用のプロテインパウダー並みです。
そして最大の特長は増えるスピードです。水素菌は地球上に多数存在していますが、「UCDI株」は24時間培養すると、なんと1グラムが16トンに増えるそうです。これは自然界の水素菌や他社が開発した水素菌を圧倒的に上回ります。
同社ではこうして増やした水素菌を冷やして固め、食感などを加工することで「肉」に近づける技術を進めています。
「UCDI株」を取り上げたテレビ番組で実際に食べてみたレポーターによれば「見た目はビーフジャーキー、食感はサクサクとして、味はまったくしない」ということですが、この人工肉はそのまま肉として食べるのではなく、ハムやソーセージ、ハンバーグなどの加工用肉として研究が進んでおり、3年以内の販売開始を目指しています。
大きな可能性を含む水素菌
水素菌「UCDI株」は同社の最高顧問を務める兒玉徹博士が1976年に発見しました。
CO2資源化研究所はこの菌体を活用してCO2そのものを資源化する技術を確立し、食糧問題と地球温暖化対策に貢献する会社として2015年(平成27年)に設立されました。
2018年 | ・バイオジェット燃料生産の原料となるイソブタノールをCO2から生成する特許(特許第6450912号)を取得 |
2019年 | ・ポリエチレン原料となるエタノールをCO2から生成する特許(特許第6485828号)を取得 ・食品添加物、キレート剤原料となるアラニンを世界で初めてCO2から生成する特許(特許第6528295号)を取得 ・飼料添加剤等の原料となるバリンをCO2から生成する特許(特許第6604584号)を取得 |
同社が事業化を目指している分野は人工肉だけではありません。水素菌「UCDI株」の”二酸化炭素から有機物を効率的に生成する”能力は、バイオ燃料やプラスチック製造にも生かされようとしています。
先月11月17日、CO2資源化研究所は太陽石油株式会社と共同研究契約を締結しました。内容はバイオジェット燃料の原料であるイソブタノール製造に関する研究についてです。
🌎 水素菌を用いたバイオジェット燃料製造に関する共同研究契約の締結について 〜 CO2を原料とした SAF(持続可能な航空燃料)製造に向けた共同研究を開始 〜(PDF)
水素菌は水素と二酸化炭素から有機物をつくる微生物ですが、有機物は生物体内で作られる炭水化物、脂肪、タンパク質だけではありません。
「有機物」は炭素を含む化合物の総称であり、ポリエチレンの原料となるエタノール(C2H5OH)やイソブタノール(C4H10O)など、水素菌の活用は広範囲です。
CO2資源化研究所は現在、600名を超える研究者、150社を超える企業とネットワークを構築しており、飼料タンパク素材、プロテイン、バイオジェット燃料、化学品の4分野で早期の事業化を目指しています。
(ミカドONLINE編集部)
出典/参考記事:厄介者のCO2を資源に!二酸化炭素から「肉」を作る 株式会社CO2資源化研究所 水素菌を用いたバイオジェット燃料製造に関する共同研究契約の締結について など