エネマネ最新事情(37) ~1Lが1円玉3枚分に!体積を激減させて水素を保存できるのが水素吸蔵合金~

    みかドン ミカどん水素貯蔵と輸送の課題は水素が常温常圧で気体であるということ。だけど水素吸蔵合金ならなんと体積を1000分の1まで減らして、さらに安価で安全に固体として貯蔵運搬できるんです!今回は富谷市(宮城県)の話題も掲載しましたよ!

    水素貯蔵合金は安全安価な水素貯蔵・輸送方法

    清水建設北陸支店の1フロアにある水素貯蔵用のタンク群(画像:日本経済新聞

    テレビや新聞で水素のニュースを見かける機会が増えています。水素は燃やしてもCO2を出さないため、地球温暖化防止に役立つ燃料として研究開発が進められてきました。

    水素は、電気を使って水から取り出せるだけでなく、石油や天然ガスなどの化石燃料、メタノールやエタノール、下水汚泥、廃プラスチックなど、理論上はさまざまな資源からつくることができます。(※技術的には可能でもコストが課題)

    水素活用はエネルギー資源に乏しい日本にとって大きな強みになるため、国は水素社会の実現を2014年からエネルギー基本計画に盛り込み、岸田総理も会見などでたびたび水素に言及しています。

    けれど水素の活用にはまだまだ課題も多くあります。その中のひとつが水素の貯蔵です。水素は常温常圧では気体なので蓄えておくには非常に”かさばる”のです。そういった水素の体積をなんと1000分の1にまで減らして自分の中に吸収してしまう物質があります。それが水素吸蔵合金です。

    水素を貯蔵する方法としては以下の4種類が主に使われています。

    • 高圧で圧縮して貯蔵
    • 低温で液化して貯蔵
    • 金属などに吸蔵・吸着させて貯蔵
    • 他の物質に変換して貯蔵

    このうち「金属などに吸蔵・吸着させて貯蔵」する方法に水素吸蔵合金が使われており、コンパクトで安全・安価な水素貯蔵/輸送方法として一部ではすでに実用化されています。

    体積が1000分の1に!レアメタル不要の技術も開発される

    (画像:サイテム

    マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(Mg)、ランタン(La)等の元素は水素と相性がよく、水素と化合して水素化物となります。

    これらを含む2種類以上の金属をある配合比(組成)で混ぜ合わせると、圧力や温度の増減で比較的簡単に水素を吸蔵⇔放出できる合金ができあがります。この合金が水素吸蔵合金です。

    体積が1000分の1になるということは、1Lが1円玉3枚分まで激減してしまうということです。

    この現象を積極的に水素貯蔵に用いる研究は、1960年代のアメリカで開始されましたがこれまで以下のような課題がありました。繰り返し使うと合金の微紛化が進み発火の恐れが出てくることからさまざまな法規制もありました。

    (1)貯蔵量当たりの重量が圧縮水素や液化水素よりも重いため、輸送用途には向かない
    (2)これまでは貴金属を使うため材料自体が高価
    (3)合金にH2を封入する際に比較的高い圧力、取り出す際には高熱が必要

    しかし最近、相次いで新しい技術が発表され、従来の課題のうち「重さ」以外は解決しつつあるようです。

    ①那須電機鉄工
    那須電機鉄工は初期活性化の問題を独自技術でクリアして安価なチタン鉄(Ti-Fe)系合金の利用を可能にしました。これによって大規模な量産のめどが立ったようです。
    🌎那須電機鉄工、鉄チタン合金で水素タンク、初期活性化を不要に

    ②量子科学技術研究開発機構(QST)
    量子科学技術研究開発機構(QST)の齋藤寛之氏らは従来の研究の定石を覆し、資源量が豊富なアルミニウムと鉄を組み合わせた合金で水素が蓄えられることを発見しました。
    🌎希少な元素を使わずにアルミニウムと鉄で水素を蓄える ―水素吸蔵合金開発の新たな展開を先導―

    (画像:量子科学技術研究開発機構

    水素吸蔵合金は宮城県富谷市の実証システムでも使われました

    (富谷市役所 2021.1.15 編集部撮影)

    水素吸蔵合金は私たち仙台市のお隣、宮城県富谷市の「低炭素水素プロジェクト」でも使われています。

    これは日立、丸紅、みやぎ生協と富谷市が2017年に環境省の「地域連携・低炭素水素技術実証事業」に採択されて展開しているもので、新産業の創出やアイディア溢れる方策によって地域の課題を解決するプロジェクトとして「プラチナ大賞」の優秀賞~新しい時代のインフラ賞~も受賞しました。

    プロジェクトの中身は、以下のようなものです。

    太陽光発電の電力を用いて、水を電気分解し、水素を製造、水素吸蔵合金を用いたカセットに蔵し、生協のトラックなど、既存の配送網を用いて店舗や一般家庭、児童クラブに配送、各施設の燃料電池を用いて発電や給湯に活用する実証

    (出典:とみやから始まる未来のくらし(PDF)

    このプロジェクトでは水素吸蔵合金も重要なキーワードでした。

    ※本実証事業の特性として、水素キャリアに水素吸蔵合金を使用しており、高圧水素や液化水素とは違い、安全性の面で優れているので民生用での水素利用として、一般家庭での水素エネルギー利用を実証している。また、非危険物扱いなので、誰でもオペレーションが可能である。

    (出典:とみやから始まる未来のくらし(PDF)

    現在、水素吸蔵合金は消防法では非危険物に該当し指定数の規制を受けません。また高圧ガス保安法にも該当せず資格者が不要であるため、低圧・安全に一般貨物と同じ扱いで運搬することが可能です。そのため水素吸蔵合金カセットの利用は、住宅地への供給に適した方法であるというのがこの実証の趣旨のひとつになります。

    富谷市の実証事業は今年度で期間が終了し、現在はレポートをまとめている段階(富谷市:企画政策課)とのことですが、水素吸蔵合金は将来の水素エネルギー社会においてさまざまな場面での活用が期待される技術と言えそうです。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考/引用記事: 「水素エネルギー」は何がどのようにすごいのか?(資源エネルギー庁) ~特集~ 水素社会は本当に実現するのか(三井住友フィナンシャルグループ) 清水建設のビル「巨大な電池」に? 潜む水素タンク群(日本経済新聞) 水素エネルギー技術(水素エネルギーナビ) 水素の大量貯蔵時代始まる、水素吸蔵合金の課題もほぼ解消(日経クロステック/有料) 希少な元素を使わずにアルミニウムと鉄で水素を蓄える ―水素吸蔵合金開発の新たな展開を先導― 水素サプライチェーン事業化に関する調査・報告書(2021 年版)(環境省/PDF) 水素吸蔵合金(日本製鋼所M&E/PDF) など

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