最近、よく話題になる量子コンピューターですが、はっきり言って全然よくわかりません。そこで今回は専門用語を使わない量子コンピューターの解説にチャレンジしてみました。あまりトライしたことがない分野なので間違っている個所があればぜひご指摘ください。
現実ではまったく理解できない量子の特長
「量子」とは原子レベル以下の極めて小さいエネルギーや物質の単位です。量子の代表例には原子そのものや原子を構成する陽子や電子、光子(光の粒)やニュートリノなどの素粒子があります。
科学技術が進歩して、ミクロの世界も実験で観察できるようになった結果、これらの量子は私たちがどう頑張っても理解できない、摩訶不思議な特徴を持つことがわかりました。
たとえば量子(たとえば電子)を一発ずつ、二か所スリットのあるついたてに連続して発射し続けると、スリットをすり抜けた量子だけが図Aのように二か所に観察されるはずです。
ところが実際の実験結果ではなぜか図Bのような縞模様ができあがるのです(これには条件がありますが割愛します)。
これはある条件が整うと、移動中のそれぞれの量子は実体のない煙のような(?)または形のないエネルギーだけのような存在として両方の穴を同時に通過し、そのまま観測板にぶつかって再び実体となって記録されたことを意味します。
その様子を調べてみると水を伝わる波や空中を伝わる電波のように干渉や回り込みも観察されました。そこで今まで「粒」だと思われていた量子は「粒でもあり波でもある」(両方の性質を併せ持つ)と言われるようになりました。以下の図のように、干渉によって波が強まったり打ち消し合ったりしないと縞模様は決して現れないからです。
実際にこうなっているのかどうかは誰にもわからないのですが、これは以下の図のような考え方を当てはめるとすべての説明が付く・・・という結果論なのです。
なのに理論的にはすでに正しさが証明されている!?
そのほかにも量子は「何かの理由でペア状態になっているとき(実際は2個以上)それらをどんなに遠くまで引き離しても、同時に連動した振る舞いをする」という特性があることもわかりました。それがたとえ地球と月の距離(またはそれ以上の宇宙空間)であってもです。
たとえば紅白ペアの量子があって、片方を調べて紅とわかった瞬間に、どんなに離れていても残りの片方は同時に白になる、といった感じです。(意味不明ですよね)
つまり量子は私たちが今まで扱ってきたモノ・物質の概念とは根本的に全く異なり、正確には「粒でもなく」「波でもなく」「形があるのかないのかもよくわからず」「現実にはあり得ない挙動」をして、なぜそうなのか?は学者でさえもわからない・・・というシロモノです。
ところが!!!この量子の動き方は、実は長年の研究ですでに正しさが証明されているのです。たとえば一例として以下のような方程式も発表されています。
ほかにも実証済みの方程式は複数あり、誰もが納得できない現象なのに、量子の動き自体は計算で求めることができる!という信じがたい状況です。
つまり、なぜそうなのか?はスルーして、あくまでも実際に観察された現象から帰納的に法則を導き出してきたのが量子力学ともいえるのかもしれません。
量子コンピューターの原理
この世のものとは思えない動きをする量子ですが、計算で予測できるなら現実世界への応用も可能です。そのひとつが量子コンピューターです。
ポイントは先の実験でわかった「一つの量子が二つ(あるいは複数)のスリットを同時に通る」という性質。そして「どんなに離れていても瞬時に相関的な動きをする」挙動です。
従来のコンピューターは回路を流れる電圧の「高い/低い」を数字の「1/0」とみなし、すべてのデータを二進数に置き換えて計算するものでした。これはどんなデータも1と0の組み合わに定めてしまうもので、スリットの実験に例えると右を通るか左を通るかの結果の羅列です。
ですが量子は両方の穴を同時に通ってしまうのですから「どちらの穴を通るか?」という二択の発想が通用しません。これを従来のコンピューターの考え方に当てはめると「右も通るし左も通る」ということになります。つまり常に2通りの答えを内在していることになります。
ということはうまく使えば、右を通った時の答えと左を通った時の答えを同時に調べられるという結論になります。
量子コンピューターが早いと言われる理由
今は5月ですが、5を二進数で表すと「101」(3桁)なのでビット3つ分です。
ですが量子ビットが3つある場合は「1または0」「1または0」「1または0」の組み合わせなので2×2×2で8通りの数字を表すことができます。その中から正解を選ぶのが量子コンピューターの計算方法になります。(この考えでいいのかな・・・?)つまり量子ビットが3つあれば8つの情報(の可能性)を取り扱えるのです。(コインの表裏に似てますね)
そういわれると確かに一度に処理できる情報量は、従来のコンピューターに比べると飛躍的に多くなりそうです。それが”早い”といわれるゆえんです。けれど今はまだ、数ある候補の中から安定して正解を取り出す技術が確立していません。
調べてみるとどうやら量子コンピューターは、1台あればあれにもこれにも(例えば文書作成や表計算や動画視聴など)使えるわけではなく、あくまでも目的をひとつに絞り(主に現在のコンピューターが苦手とする分野)、正解を取り出す方法もまた、その目的に合わせて一から設計し、そのうえで計算を行う単一の装置らしいです。
そして2019年にGoogle社が”約1万年かかる計算を約3分で解いた”と発表した量子コンピューターも、昨年末に”133量子ビットのプロセッサーを搭載した”と発表したIBMの量子コンピューターも、実はほんの入り口のおもちゃのようなもので、研究開発者にとって本当のゴールはまだまだずっと遠い先という共通認識があるようです。
東京大学准教授の武田俊太郎氏の著書「量子コンピュータが本当にわかる!」によると、量子コンピューターの正解は、波の干渉を利用した以下のような”イメージ”で求めるらしいのですが、こうなるともうさっぱりわかりません・・・
ただひとついえることは、もし今後、量子コンピューターが本格的に実用化されても、その用途は非常に限られた分野になることだけは確かなようです。
膨大な組み合わせの中からベストな答えを絞り込むのが得意
量子コンピューターは「ものすごい早さと能力を持った夢の次世代コンピューター」と紹介されることがよくありますが、それは厳密には間違いなのだそうです。
これまで書いて来たとおり、量子コンピューターはしくみにも計算方法にも大きな癖があり、従来のコンピューターに取って替わるものではありません。識者によれば日常的な計算であれば今のパソコンのほうがずっと早くて優れているとのこと。
では何が得意か?というと、膨大な組み合わせ候補の中からベストな答えを選ぶ計算です。
従来のコンピューターがこれを調べるには、全ての候補を一度計算し終えてから答えを比較する方法を取るため、組合せがとてつもなく多いと気の遠くなるような時間がかかります。その結果、万単位の年月を要し、事実上不可能と結論づけられている計算例もあります。
けれど量子コンピューターはたくさんの可能性を同時に扱うことができるので(といっても技術的に限界はあると思いますが)従来のコンピューターよりも大幅に時間が短縮されます。
そのため化学物質や新薬など新しい化合物の開発や、物流のルート検索、製造手法や金融ポートフォリオの最適化などと相性がよく、現在では約60種類の目的に対して実現の見込みがあり、それが可能になれば大きな効果があることがわかっています。
集積回路の小型化はもう限界に来ており、今から従来型のコンピューターの性能が大きく上がることはないだろうと言われています。そんな中で、今後の産業に大きく貢献する量子コンピューターの開発競争が世界中で激化しているの言うまでもありません。
(ミカドONLINE編集部)
引用・参考/量子力学とは 量子の特殊な性質を研究する学問/ミニッツ・バイ・日経 量子コンピュータが本当にわかる!/武田俊太郎(技術評論社) 本当によくわかる「量子コンピュータ入門」 (全4話)/10ミニッツTV など