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電気と磁気の関連がわかった19世紀前半の軌跡
電波は空間を伝わる電気エネルギーの波です。電池がなくてもゲルマニウムラジオが聞こえるのは、放送局が出した電気エネルギーを受け取っているからです。
皆さんは学校の頃に習ったエルステッドの実験を覚えていますか?デンマークの物理学者ハンス・クリスチャン・エルステッドは、ボルタ電池を使って電流の実験をしていたときに、導線に電流が流れると、近くに置いた方位磁石が振れることを見つけ、電気を流すと周囲の環境が磁気を帯びること発見しました。(1820年)
エルステッドの実験結果は注目を浴びて各地に伝わり、それに強い関心を抱いたフランスのアンペールはわずか2週間で追試に成功し、やがて、電流とそのまわりにできる磁場との関係を表したアンペールの法則を発表しました。(1820年)
一方、エルステッドの実験結果を知ったイギリスのマイケル・ファラデーは、「電流が磁場をつくるなら、その逆も成り立つでは?」と考えて実験を行い、コイルの中に磁石を出し入れすると銅線に電流が流れることを発見して電磁誘導の法則を導き出しました。(1831年)
これらの成果により、今まで別なものと とらえられていた電気と磁気は相互に密接な関連があることが明らかになったのです。
電波はなぜ伝わるの?電波が伝わるしくみ
帯電している空間を電場といい、帯磁している空間を磁場と言いますが、二人の実験により「電場は磁場をつくり、磁場は電場をつくる」ことがわかりました。(電場・磁場はそれぞれ電界・磁界ともいいます)
その理論を基に簡単に説明すると、導体に電流が流れると周囲に磁場をつくり、今度はその磁場が周囲に電場をつくり、それが無限に繰り返されながら空間を伝わっていく波が電波ということになります。
電場と磁場が交互に生み出されて次の波をつくっていくのが電波が伝わるしくみだったのです。
電波は波ですから実際には山と谷があります。
また、電気の波と磁気の波は振幅の方向を直角に取りながら一緒に進んで行きます。その様子を模式化したのが以下の動画です。
マックスウェルが予言した「電磁波の存在」
これらの動作を理論化し、方程式にしたのがイギリスのマックスウェルです。
マックスウェルは小さい頃から数学の才能に富み、20代前半で土星の環の正体を数学的に解明したり、世界で初めてカラー写真の撮影に成功したり、同年に気体の分子運動論を発表していますが、その数年後にアンペールの法則やファラデイの法則等から電気と磁気の性質を次のようにまとめました。
(1)1種類の電荷の力は放射状に直線的に広がる。(ガウスの法則)
(2) 磁気の力はループ状につながっている。(ガウスの法則)
(3) 電気が変化すると磁気が生まれる。(アンペールの法則)
(4) 磁気が変化すると電気が生まれる。(ファラデイの法則)
そしてそれらを方程式にして王立学会で発表しました。(1864年)
マックスウェルは電気と磁気を理論的に融合させた人物として、ニュートンやアインシュタインと並び称される物理学者ですが、現代につながる最大の功績は電磁波の存在を推測したことです。
電磁波というのは電気と磁気を一緒に変化させるエネルギーの波の総称で、今回のテーマである電波はもちろんのこと、レントゲンのX線も電子レンジのマイクロ波もすべて含まれます。
マックスウェルはこの研究を通して、真空や物質中を伝わる電気+磁気の波動(電磁波)が存在することを予言しました。
また、マックスウェルは自分が導き出した方程式に沿って電気・磁気の力によって伝播する波の速度を求めたところ、当時すでにわかっていた光の速度とほぼ一致することが判明したのです。
これによってマックスウェルは光もまた同じ波の一種ではないかと考え、電磁波が光の速度と同等であることを証明することによって、光=電磁波という原理を証明したのでした。
電波も光も熱も、電磁場から生まれる波はすべて電磁波
現在では電磁場の周期的な変化で起こる波動を電磁波と呼び、電波も光もその仲間です。
また熱があるすべてのものからも赤外線という電磁波が放射されていることもわかっています。
鉄を熱すると段々赤味を帯び、さらに熱するとまぶしく光り始めるのは、発生する電磁波の周波数がどんどん上がって可視光線の帯域に及んだということになりますし、私達のからだも熱を持っているので弱い電磁波(赤外線)を出しており、赤外線カメラなどでもそれを知ることができますよね。
地上に降り注ぐ太陽の熱も赤外線ですし、夜空にまたたく星の光も目に見えるので可視光線の帯域の電磁波です。熱そのものが電磁波というわけではありませんが、放射熱は電磁波を通して伝わるため、物質を介さない熱の伝搬は電磁波が運んでいるといえます。
電磁波は「波」なので、海の波のように山と谷がありますが、この波が1秒間に何回通過するかを現した数字が周波数です。単位はHzで表されます。
左の図では1秒間に波の山が3回通過しているので3Hzの電波ということになります。
様々な電磁波を同じ仲間と思えないのは、この周波数(振幅回数)によって性質が大きく変わるからです。
日本の電波法では周波数が300万MHz(=3000GHz=3THz)以下の周波数の電磁波を総称して「電波」と呼んでおり、その帯域外にある赤外線や可視光線は通常電波とはいいませんが、実体が明らかになる前から計算という手法で仮説を導き出し、電磁波というものの存在を予言したマックスウェルは、電磁波理論を完成させた偉大な科学者といわざるを得ません。
上の図は電磁波の周波数による分類表です。電波の周波数は、高くなればなるほど扱える情報量が増えますが、その分直進性が増すため物陰に隠れるとすぐに届かなくなる傾向があります。
電波によく似た波で音波(音)がありますが、音波は空気などの媒質に生ずる波動なので電磁波ではありません。
電波は真空でも伝わりますが、音波は真空では伝わらないため、どんなに宇宙戦艦ヤマトが宇宙空間で敵国相手に派手な戦闘を繰り広げても、実際はなにひとつ物音がしないのです。
現在は、電波(電磁波)に関して様々な事柄がわかっていますが、マックスウェルが仮説を立てた「電磁波の存在」が実証されるのは、それから30数年後です。
マックスウェルの方程式は複雑で難解なものだったため、数学がそれほど重要でなかった当時の物理学の世界では、いまよりも評価が低かったそうです。
ですが、ノストラダムスの大予言はハズれても、計算と数式から電磁波の存在を予測したマックスウェルの予言は、まさに「大予言」だったといえるでしょう。
理論上の仮説だった「電磁波の存在」を実際に実験で証明したのは、ドイツの物理学者ハインリッヒ・ヘルツでした。次回はヘルツについてのヒストリーをお届けします。
(➡ 次回:②電波を発見しても電波の価値は見いだせなかったヘルツ)