ノーベル賞日本人受賞者(7)利根川進博士は何をした人?~1987年(昭和62年)生理学・医学賞を48歳で受賞~

    みかドン ミカどん2022年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は日本人7人目のノーベル賞受賞者 利根川進博士 です。

    無名だった利根川博士の驚くべき研究発表に世界が注目

    利根川進博士はノーベル生理学・医学賞を1987(昭和62年)に48歳で授賞しました。日本人でノーベル生理学・医学賞を受賞したのは利根川博士が初めてです。

    利根川博士は、京都大学ウイルス研究所で「分子生物学」を学んだ後、アメリカやスイスに渡って免疫の研究を続けました。 そして、私たちの体がさまざまなウイルス・病原菌の種類1つ1つに合わせて抗体を作れるのは、遺伝子が変化しているためである、という事実を世界で初めて突き止めたのです。

    「遺伝子は変化しない」とされてきたそれまでの常識を覆す論文を発表したのが1976年。アメリカで開催されたシンポジウムに招待されていた利根川博士は、 無名の研究者でありながら栄えある最終演者に割り当てられていました。関係者は博士がスイスの研究所で発見した驚くべき成果を察知していたのです。

    ここで研究発表をすることが分子生物学者のステイタスにもなっているシンポジウムの場で、実験の経緯や経過などを詳しく紹介し始めた博士の発表は、時間切れになり司会者から発表を止められてしまいました。

    しかしこの研究所の所長が、「これは重要な発表なのだから、最後までやってください」と口添えをしてくれたため、追試の結果まで含めて、すべてを発表することができました。

    それは遺伝子組み換えが起こっているという、驚くべき結論でしたが、実験は非常に緻密で疑問を差しはさむ余地がなく、発表が終わると、会場は割れるような拍手に包まれたそうです。その11年後に利根川博士はノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

    変化しないと思われていた遺伝子に組み換えが起きていた

    (画像:テルモ日本赤十字社

    細菌やウィルスなどの抗原がヒトの体に入ってくると、それに対抗するために白血球のB細胞で抗体がつくられます。抗体はそのとき入って来た抗原に適合するようにつくられるため、ひとつの抗原に対応する抗体は1種類しかありません。その様子はよく鍵と鍵穴の関係にたとえられます。

    抗体はたくさんのアミノ酸が並んでつくられたタンパク質なので、抗体の種類が違えば、アミノ酸の並び方も異なり、その並び方は遺伝子によって決められます。しかし100億種類以上もあるといわれるヒトの抗体に対して、ヒトの遺伝子は2万数千しかなく、そこからどうやって膨大な種類の抗体がつくられるのかが長年の謎でした。

    そこで利根川博士は「遺伝子に組み換えが起こっているのでは?」と考え、それを実験で確かめることにしました。それまでは「遺伝子は修正変化しない」と考えられており抗体に関しては諸説が入り乱れていましたが、利根川博士は実験によって自分の仮説が正しかったことを証明し、長年の論争に終止符が打たれました。それは世界に衝撃を与えた発表でした。

    ストレートで負けん気が強かった利根川博士

    マサチューセッツ工科大学在籍当時の利根川博士

    実は利根川博士は元々生物の研究を目指していたわけではありません。人間の体がみな細胞でできていることを大学で一般教養の生物を取るまでは知らず、友達に馬鹿にされたりしたそうです。

    しかし大学の専攻過程で選択した化学はすでに確立された分野で目新しさに乏しく、研究者として大学に残りたいと思っていた博士にとっては興味の持てないものでした。

    ある日利根川博士は学内の人物から遺伝暗号解読の話を聞き、生物現象を科学的に研究することに興味を持ちました。

    それが当時の日本ではまだ専門家がおらず、米国に行かないと研究ができない分野だったため、大学院に進んだ博士は教授の勧めで大学を中退し、1963年、設立されたばかりのカリフォルニア大学サンディエゴ校へ留学します。

    「イエス、ノー」をはっきり言う性格で負けん気も強かった利根川博士は、ドライに割り切るアメリカ社会とは相性がよく、たちまち実力を発揮していきました。

    理化学研究所のサイトに掲載されている現在の利根川博士

    現在、83歳(2022年時点)の利根川博士はマサチューセッツ工科大学の教授を務め、理化学研究所などにも籍を残しながら、今は脳科学の研究をされています。

    脳科学の分野でも現役で成果を挙げている利根川博士のインタビュー記事は、インターネットで検索すればいくつも読むことができますが、私は以下のインタビューに博士のご性格がよく表れていると感じました。確かに明快でストレート!

    エネルギッシュに研究を進めていった利根川博士の人柄が出ていて、なるほど、と納得しました。

    🌍ノーベル賞受賞利根川進教授に直接聞いてみた!英語、留学、教育、MITへの考察

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用:昭和のノーベル賞 初の生理学・医学賞 利根川進氏 北里が発見し、利根川が解明した「抗体」一○○年の謎。 など