2022年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は日本人10人目のノーベル賞受賞者 野依良治博士 です。
有害な分子を発生させない化学合成の手法で功績
野依良治博士はノーベル化学賞を2001年(平成13年)に63歳で受賞しました。
野依博士の授賞理由は「キラル触媒による不斉合成反応の研究」です。聞きなれない言葉ですが結論から言うと、物質を化学合成するときに有害な分子が生成されない方法を編み出した、ということです。
2001年のノーベル化学賞は、野依博士(当時63)と元米モンサント社研究員のウィリアム・ノーレス博士(当時84)、米スクリプス研究所のバリー・シャープレス教授(当時60)の3氏が共同受賞しましたが、この3人が共同で研究を行っていたわけではなく、全く同じ分野で3氏がそれぞれ別個に成果を上げたようです。
物質の人工化学合成には大きな課題がありました
それではいったい「キラル触媒による不斉合成反応の研究」とはなんでしょうか?九州大学付属図書館のサイトに大変わかりやすい解説があったので、以下に一部を編集して引用します。
まずは、右手と左手を思い浮かべてください。右手を鏡に写すと左手が現れますよね?このような関係にあるものを鏡像異性体と呼びます。分子にも右手と左手のようなものが存在し、右手は有益で、左手は有害という場合がしばしばあります。
代表的な例が大きな社会問題となったサリドマイドです。右手は鎮静剤として薬になるのですが、左手は胎児に障害をもたらすことが後に判明します。しかし右手左手の性質がよく知られていないときは両方をごちゃまぜにして薬として使っていたので、後に大問題となったのです。
つまり、化合物を作る段階で、右手型と左手型を分けることは非常に重要なことで、これを作り分ける方法を発見したのが野依博士だったのです。
(引用:九州大学付属図書館)
キラルというのはギリシア語の“cheiro”(掌)に由来する言葉で、手のひらのように鏡面の関係にある状態を指していますが、それまでの有機化合物は化学合成すると1:1の割合で必ず半分は鏡像異性体になるため、その解決が化学者たちの大きな課題でした。
BINAP(バイナップ)と呼ばれる触媒を開発
キラルはたんぱく質の構成要素であるアミノ酸をはじめ、医薬品、香料などに見られますが、生物は酵素などを使って有用なキラルだけを巧みに作り分けているため通常は問題になりません。しかしこれを人工的に合成しようとするとどうしてもお互いが入り混じった混合物になってしまうのです。
そのため19世紀のフランスの化学者パスツールはおよそ150年前,人工合成で別々の型をつくり分けるのは無理だと唱え、1960年代になっても化学者の間には不可能であるという考えが常識化していました。
しかし1966年野依博士は問題解決の糸口をつかみました。ある実験で異なる量の右手型と左手型の物質を作りだすことに成功したのです。その比率は55:45。わずかな差ですが当時の常識を覆すには十分な結果でした。
「異なる量での作り分けができるならどちらか一方だけを作り出すことも可能なはずだ。」
博士はその可能性を追求するためある物質の研究を始めました。それがBINAP(バイナップ)と呼ばれる触媒の物質です。BINAPを触媒として物質を化学合成するとどちらか一方だけを生み出すことができるのです。
産業界に大きな役割を果たしました
野依博士は2年がかりで確立を100%まで高めることに成功し、これがきっかけとして新たな触媒を次々に開発しました。
この技術により日本でメントールの世界的な大量生産が可能になるなど、野依博士の研究が産業界に果たした役割は大きく、その功績が認められてノーベル化学賞を受賞するに至りました。
この手法は現在,医薬品の分野でも実用化されておりパーキンソン病治療薬や抗ガン作用があるとされる生理活性物質プロスタグランジン,ビタミンEなどの製造技術として活用されています。
野依博士はその後、理化学研究所の所長になりましたが、在任時にSTAP細胞の論文不正問題が起こったため、その会見等で名前を知った人も多いかもしれません。
野依博士は一説によると鬼のように頑固で手加減なく厳しい一面もあったようですが、私たちが気軽にハッカ飴をなめられるのも野依博士のお陰かもしれません。そう思うとお人柄はさておき、実績のほうに大きく感謝したいですね。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用: 野依良治 – ★ノーベル化学賞をわかりやすく – Cute.Guides at 九州大学 Kyushu University 詳報:ノーベル化学賞 信念でつかんだ化学の夢 – 日経サイエンス 吾輩はノーベルである (3)野依良治 白川英樹 ~化学の進歩に貢献~ – YouTube など