これでなっとく!エネルギー(1)バイオマス発電とバイオガス発電はどう違うの?

    みかドン ミカどん

    エネルギーに関して日ごろから感じている基本的な疑問について解説する新シリーズです。第1回目は「バイオマス発電とバイオガス発電の違い」についてです。この2つは言葉は似ていますが、実は違うものなんです。(このシリーズのリストはこちら

    バイオマスとバイオガスは違うんです

    建設中の石巻ひばり野バイオマス発電所(Googleストリートビュー2022.5月より)

    宮城県石巻市潮見町に現在、国内最大級のバイオマス専焼発電所が建設されています。石巻ひばり野バイオマス発電所という名前で2023年5月が完成予定ですから、順調なら来月、運転開始のニュースが新聞やテレビで報道されるかもしれませんね。

    さて前回のメルマガでは霧島酒造のサツマイモ発電をご紹介しましたが、こちらは焼酎かすや芋くずを利用したバイオガス発電でした。

    バイオマスとバイオガス。一般市民の私たちはこのよく似た言葉を普段はあまり区別せずに聞いていると思いますが、実は同じものではありません。それではこの二つはどう違うのでしょうか。そこで簡単にそれぞれの特徴を以下に書き出しました。

    バイオマス発電
    バイオマスは元々生物由来の資源全体を示す言葉です。それだけではピンと来ないかもしれませんが、再生可能エネルギーのニュースなどで「バイオマス発電」というときには、主に木や農産物に由来する資源(例:間伐材、林地残材、建築廃材、稲わら等)を直接燃やして燃料にする発電方式という理解でよいと思います。※バイオエタノールなどの液体燃料を使う場合もありますが、今回の解説からは除外します。

    バイオガス発電
    一方バイオガス発電はバイオマスから発生する可燃性ガスを燃やして燃料にします。そのガスのことをバイオガスといい、具体的には家畜の排せつ物や食物残渣、家庭の生ごみ、汚泥、汚水等を微生物の力で発酵させ、そこで生成されたメタンガスを燃やして発電する方式です。

    バイオマス発電とバイオガス発電はひと文字違うだけで原料が大きく異なります。ただし熱でお湯を沸かし、蒸気の力でタービンを回す原理は同じです。太陽光以外の発電所はすべて(もちろん原子力も)「何かの力でタービンを回転させて」電気を起こしているので、その動力にどんなエネルギーを使うか?が議論されている、ということになります。

    バイオガスプラントメーカーも菌活してる?

    バイオガス発電のしくみ(画像:みるみるわかるEnergy

    バイオガス発電ではドロドロに前処理された原料を、発酵槽と呼ばれる大きなタンクの中で微生物と反応させてメタンガスを発生させます。そのガスを燃やしてお湯を沸かし蒸気の力でタービンを回して発電するのは前述の通りです。

    世の中には多種多様な微生物が存在しており、その働きには驚かされるばかりですが、エサを食べてメタンガスを発生させる微生物はメタン生成菌と呼ばれ、これがなければバイオガス発電は成り立ちません。

    霧島酒造の発酵槽にも様々な種類の微生物が生息していますが、主役はメタノサーモバクターとメタノサルシナという2種類のメタン生成菌だそうです。

    一般的なメタン生成菌は30℃台で発酵が進みますが、同社のバイオガス発電では取り出し時に95〜97℃もある高温の焼酎かすを使うため、発酵槽に送り込んでもまだ熱く一般的なメタン生成菌を使うことができません。

    そこで共同研究を行っていた鹿島建設(株)と共に、高温でも死滅せず一般的なメタン菌よりも高い温度で活性化する菌を世界中探し回り、最終的にフランスの海底火山で鹿島建設(株)が見つけた菌(55度で活性化)がバイオガス発電の安定稼働に役立ちました。

    こういった事例を知ると、バイオガスプラントのメーカーさんは優秀なシステムだけでなく、クライアントのニーズに合った菌の提案も重要なのかな、と思ってしまいます。

    健康に関心がある方にとって腸活・菌活がいまブームですが、バイオガスプラントのメーカーさんもまた違う意味で菌活をされているのかもしれませんね。

    バイオマス発電は原料の安定供給が課題

    木質ペレット(画像:写真AC)

    さて、報道によれば5月に完成予定の石巻ひばり野バイオマス発電所では、主燃料に北米産の木質ペレット、補助燃料にインドネシアおよびマレーシア産のパーム椰子殻(PKS)が使われるとのこと。それを読んで少し意外に思いました。燃料がすべて輸入資源だったからです。

    バイオマス発電(バイオガスではなくバイオマス)は地域の林業・農業・建設業などで発生した木質系の廃棄物を有効活用するイメージでしたが、調べてみると実際には、木材チップを燃焼しやすいように加工した木質ペレットという原料を海外から輸入しているケースが多いそうです。

    その理由のひとつとしては、日本国内での林業の従事者が減っているため、間伐や主伐により伐採される木材の絶対量が少ないという事情があり、その影響で国内の木質ペレット生産量も頭打ちになっているようです。そして調達コストの面でも海外産の木質ペレットを使ったほうがずっと安価なのです。

    バイオマス発電は当初、国内産の木質ペレットなどを活用することが念頭に置かれていましたが、燃料の安定供給が難しいことから輸入燃料に頼らざるを得ず燃料の輸入量は5年間で約6倍になりました。

    FIT以降、バイオマス発電には多くの企業が参入しましたが、そういった燃料調達の難しさがあり、FITで認定されたバイオマス発電所の中で実際に稼働しているのはわずか2割という記事も目にしました。

    それでも2050年のカーボンニュートラルを目指して化石燃料を使わない発電方式を拡充させていかなければいけないのかもしれませんが、現状では何かと課題も多いようです。

    その意味でも来月完成予定の石巻ひばり野バイオマス発電所の動向が気になりますね。しばらく見守っていきたいと思います。

    (ミカドONLINE編集部)