
刑事コロンボは1968年から2003年まで米国で放送された全69話の人気ドラマです。このシリーズではドラマの中で当時の最新鋭機器という扱いで描かれている家電やシステムについてご紹介をしています。(ネタバレを含むので要注意!)

第34話「殺人警報」ではビデオデッキが登場
前回ご紹介をした「ビデオテープの証言」(原題 :Playback)(米国1975年、日本1976年放送)は、犯人がアリバイ作りのために守衛室のモニターに流した監視カメラの偽映像が逆に命取りになってしまうというストーリーでした。そしてこのときのビデオテープはオープンリール式の磁気テープでした。
刑事コロンボではその後、アリバイ作りの手段として再びビデオテープが使われますが、約15年後に放送された「犯罪警報」(原題:Caution: Murder Can Be Hazardous to Your Health)(米国1991年、日本1995年放送)ではカセットのビデオテープとカセット式のビデオデッキが使われています。(冒頭のYouTube参照/英語版)
この15年の間に家庭用ビデオデッキが日本で考案され、1980年代には世界中に普及しました。そのため1991年に放送された刑事コロンボの「犯罪警報」では、いつものような”最新鋭の高級品”という扱いにはなっておらず、この事件そのものも、アダルトビデオショップの店主が店で仕入れたあるビデオを、親友である事件の被害者に送ったことがそもそもの発端となっています。
犯罪警報については過去記事でも取り上げていますので、あらすじ等は以下をご覧ください。
刑事コロンボに見る当時の最新機器(7)フロッピーディスク
「ベータ対VHS戦争」で明暗を分けた設計思想の違い

世界で初めてオープンリール式ビデオテープレコーダー発売したのは米国のAmpex社(1956年)ですが、この頃の装置は非常に高価で主にテレビ局向けでした。
その一方で1970年代半ばの日本では、ソニーやJVC(日本ビクター)、松下電器(ナショナル→パナソニック)が家庭用カセットビデオを次々と実用化していきました。
その過程で規格の覇権争いが起こり、ソニーが主導するベータマックス陣営とJVC(日本ビクター)が主導するVHS陣営が激しく争う「ベータ対VHS戦争」が巻き起こりましたが、高画質で短時間(当初はテープ1本1時間)のベータマックスよりも「映画1本を通して録画できること」を目標に掲げ、実用的な画質で長時間(1本2時間→後に6時間)録画できるVHSが最終的に市場に受け入れられました。
またVHSを開発したJVC(日本ビクター)は技術をオープンにしたため他社も次々にVHS市場に参入し、選択肢と汎用性が広がったことも大きな要因です。
松下電器は当初、中立の立場で両者の争いを見ていましたが、ビクターが掲げたVHSの理念「技術を開放して業界全体で育てる規格にしよう」に強く共感すると同時に、大量生産で自社の強みをおおいに活かせるビジネスチャンスと判断してVHSを採用。ここで世界最大級の家電量販ネットワークを持つ松下電器が参入したことが、勝敗を大きくVHS側に傾かせました。
その後も画質重視で欧米展開に慎重だったソニーに対し、VHSは世界各国のメーカーと提携を結び、世界中で現地生産・現地ブランド化が進んだ結果、VHSは世界の標準規格となりました。
JVCは企業規模ではソニーや松下より小さく、技術をオープン化したため巨額の利益が得られたわけでもありません。なので国内での名声は控えめですが、海外では「JVC = VHSの生みの親」として非常に有名とのこと。
刑事コロンボの中でもテレビ局の中にある犯人のオフィスで、編集用に置いてある2台のカセットビデオデッキは、業界向けが多いソニー製ではなくJVC製です。犯人はこのデッキを使って時間をごまかす映像のダビングを行いましたが、このあたりに当時のカセットビデオデッキ事情が伺えるのかもしれません。
余談ですが技術を開放したため大きな利益は得られなかったものの、そのおかげで製品そのものが大きく普及したもののひとつにアシスト自転車が挙げられます。ここでは詳しく触れませんが興味がある方はご自身で調べてみてください。
「ベータ対VHS戦争」でベータマックスのソニーは敗者となってしまいましたが、私自身は「画質にこだわる姿勢」を悪い事とは思いません。製品に設計思想の違いはあっていいと思いますし、なんとなくソニーらしい流れの気もします。ただしそれはあくまでも外野の目線であり当事者にとってはさぞかしダメージの大きな痛恨のできごとだったはず。そのためこの敗北はソニーの現在にしたたかに生かされているに違いありません。
その後、DVDやネット配信の台頭で、2016年に日本の船井電機(Funai)が最後のVHSデッキの生産を終えました。ピーターフォークが生きていて刑事コロンボがもし今も続いていたら、今はどんなドラマ作りになったんでしょうね。
(ミカドONLINE 編集部)
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